9月4日(金) 東京都中央区日本橋馬喰町にある飲食店「ANTCICADA」の昆虫の佃煮3種セットを食べる。

東京都中央区日本橋馬喰町にある飲食店「ANTCICADA」の昆虫の佃煮3種セットを食べる。


冷蔵庫に虫があるからと言われていたが、いざ開けてみると無視できないほど瓶が並んでインパクトを与えてきた。だから、食べ比べてみた。


イナゴは、小魚よりも身は崩れやすく、フォルムからイメージするよりも硬くない。青唐辛子の風味が色濃く爽やかで、醤油とみりんの甘辛い味はずいぶんと美味しい。スナックよりもバッタ特有の風味とも臭みともいえる味は煮付けと同化して表立って見えず、チャーシューの煮汁も使われているらしく、出汁の旨味がバッタの身を借りた形で表れている。


国内産蚕は、とてもコクがある。一度歯を入れた瞬間にバッタとは異なる肉厚が感じられ、味付けにごまかされない芋虫の臭みを持った旨味がたっぷりあふれる。ピスタチオやカルダモンも一緒に炊かれているらしく、たしかに煮汁に染まったナッツの固まりもあり、カルダモンの香気が移っている。芋虫らしいオイリーな旨味を引き立てているのは甘辛い醤油とみりんだけでなく、間違いなくカルダモンの存在だろう。バッタよりも虫特有の風味があり、こちらの方がハードルは高く、玄人好みする佃煮となっている。


コオロギは、徳島産のフタホシコオロギが使われていて、今回の虫の佃煮の中で最も黒い味があり、特有の臭みをたしかに持ちながら、生姜が甘辛い味付けでコオロギの旨味を引き出している。蚕ほどオイリーではないが、バッタほど身が乏しいわけではないので、かっちり固まった身肉に食べごたえはある。そして甘辛さが残るので、虫特有の口に残るえぐさも中和されている。


今回食べて思うことは、虫も食べ慣れてくると、あの「虫だ!」という臭みが特色ある味わいとして感じられることで、それ以外の特有の旨味も確実な味として美味しくいただける。素揚げに比べると格段に食べやすく、やはり味付けという料理の魔法にかかると、素材は大きく変わると実感する。それに、使用される虫そのものの鮮度の良し悪しと、調味料の配分もさることながら、虫に合わせてスパイスで色を決める調理方法は、色物の食べ物よりも、冷静に素材を見極めた基本の料理として選ばれている。


単独で食べるとやや味付けが濃いので、米や日本酒なんかと合いそうに思えるのは、小魚の佃煮と同じだろう。塩辛やカニ味噌なんかの方がはるかに風味は強いので、食べ慣れるまでもなく、これらの佃煮は自然と美味しく食卓で食べられる代物だ。

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