8月27日(木) 広島市中区加古町にあるJMSアステールプラザ・大ホールで「広島交響楽団 ディスカバリー・シリーズ Hosokawa×BeethovenⅥ」を聴く。

広島市中区加古町にあるJMSアステールプラザ・大ホールで「広島交響楽団 ディスカバリー・シリーズ Hosokawa×BeethovenⅥ」を聴く。


音楽総監督:下野竜也

管弦楽:広島交響楽団

ヴァイオリン:正戸里佳

コンサートマスター:佐久間聡一


ベートーヴェン:序曲「コリオラン」

細川俊夫:悲歌 ─エレジー─ ヴァイオリンと弦楽オーケストラのための

ベートーヴェン:交響曲第6番ヘ長調 作品68「田園」

アンコール

プーランク(下野竜也編曲):平和のためにお祈りください

ベートーヴェン(野本洋介編曲):ピアノ・ソナタ第14番「月光」~1楽章より


前回はライブ配信だったと昔に感じられるほどで、生で聴くのは1月以来となるディスカバリーシリーズだが、久しぶりと思えないのは定期演奏会が再開しているからだろう。席数に対する収入の減少は演劇でも人から聞くことがあったので、やってもやらなくても、どちらにしても赤字になるならば、という話を思い出すが、そういった事を抜きに鑑賞しようと下野さんのトークに頷いた。


ベートーヴェンの序曲は、弦楽の重厚なユニゾンから始まり、大きな間の休止を挟んでからの進行は、劇的な色合いが濃く表れていた。重たい足取りよりも、強靱な意志の発露を感じる闘争としての踏みだしで、古代ローマらしい残酷な運命の中で悲劇に正面からぶつかる人間精神が力強く描かれていた。


細川俊夫さんのエレジーは、独奏の周りに弦楽が鳴り響き、まるで宵闇のすすきヶ原にいるように寒風が吹いていた。やはり思い出すのは何度か聞いた細川さんの別の曲だが、なかでも能舞台で観たオペラ「松風」の印象がよぎることになった。正戸さんはとても技術が高く、頼もしく綺麗に響いていたが、はたして別の人ならどのような解釈となり、初演で弾いたルノー・カプソンならばどうだったか考える余地があった。そう長くはない曲だが、管楽器の混ざらない弦だけの響きは体感しやすく、縹渺とした中の風が細かに吹き続けていた。


アンコールにプーランクの「平和のためにお祈りください」が演奏され、高音部の伸びやかなヴァイオリンの艶を聴いて、水を得た魚の輝かしさを正戸さんに観ると、留学先の特色の大きさなのか、それとも本人の資質なのか、平仄のような接合を感じた。


ベートーヴェンの交響曲は、何度も聴いたからこそ最近はほとんど耳にすることはなく、演奏会で聴くのも初めてと思うくらいだった。音源で聴き慣れた演奏に比べると、冒頭のリズムから違うと思われる不思議な間があり、それからも古風に澄んだ音色よりも、自然に賑わう情感が抑揚を持ってつぶさに描かれているようだった。特に管楽器の存在がより若々しく、ヨーロッパの森と異なる小鳥の声が元気にあるようで、美しくはあるが、荘厳よりも溌剌とした調子があり、他のベートーヴェンの明るい曲に対しても喜ばしいように思えた下野さんの表現は、ここでも暗くならない豊かな情感となって清新な気持ちで挑まれているように感じられた。


最近の演奏会の中では特に下野さんの茶目っ気が目立っていて、演奏後の満足そうな姿を見ていると、暗さよりも素直な明るさが似合う方だと微笑ましくなった。つい暗い音楽を好みがちな自分だが、最近は明るい曲の味わいもわかるようで、前シーズンのディスカバリーシリーズでいくつもの序曲を聴いた経験も影響しているのだろう。


残るはあと7番と8番になり、このシーズンが終わったあとは、もしかしたらブラームスのシリーズを1年間通すのではないかと布石が置かれるように、普段とは異なるトロンボーンの演奏位置と音の長さも勉強になった演奏会となった。

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