7月26日(日) 呉市中通にある「ゴクラク堂」前のベンチに座る。

呉市中通にある「ゴクラク堂」前のベンチに座る。


呉には数回しか来ていないが、「昴珈琲店 呉本店」でホットコーヒーを買い、近くのベンチで飲むことがあったので、ぜひ座って書こうと思っていた。


いつも電車で来ていたところを、今回はバスでやってきた。一時間にも満たない移動ではあるが、広島大橋からの海田大橋と景色が美しく、高速道路がスピードに乗せてじょじょに上がっていく瞬間の躍動感と海と山の開き、そして眼下に船が停留されている景観の調和のすばらしさに、旅行に対しての強烈な欲求がよみがえった。旅行中の移動の景色が何より好きだ。これは誰かと一緒に時間を過ごして共有するよりも、一人外界の美しさを観察するほうに内面の重きを置く自分の性格らしく、これが普通だと思っていたら、どうやら他の人は違うらしいと三十路を過ぎてから気がついた。他人への関心と同調は、その感覚が鈍い分だけ、人間でない対象に対しての興味が与えられているのかもしれない。それだから、移動中の景色に対してなんら興味を覚えずにスマホをいじったり、眠ったりする人が理解できず、そんな人が大勢いることが不思議に思えていた。いや、小さい頃から言われていた、天然、お茶目、不思議、理解できない、このような評価を人からもらうことがそもそもまぎれもない通信簿のようだ。


とにかく、下の道は通っていたが、坂や小屋浦の中腹といっていいのかわからないが、小高い中を通っていて思ったのは、景観が本当にすばらしい。それは初めてという新鮮な目もあるが、山を塊と感じる量感があり、高さだけでない厚みを持った自然の偉容をじかに感じたからだ。いたるところにブルーシートが見つけられ、土を覆うよりもところどころ同化していて、ニュースや物語で知った内容がそこかしこに浮かびあがるようだった。


天気予報は雨で、まだ降り始めていなかったが、コーヒーを飲みながら数分目を離したすきに、後ろでは土砂降りとなっている。これが今の時代の天候だ。来年、再来年もまた違うのだろう。


「ゴクラク堂」の店構えは古く、整然としながらもすこし珍しい物も置かれている。スーパーには盆灯籠が並び、線香もつぎつぎと焚かれていくだろう。

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