7月12日(日) 広島市中区基町にある広島市映像文化ライブラリーでフィリプ・バヨン監督の「執事の人生」を観る。

広島市中区基町にある広島市映像文化ライブラリーでフィリプ・バヨン監督の「執事の人生」を観る。


2018年 ポーランド語 147分 カラー 日本語字幕 デジタル


監督:フィリプ・バヨン

出演:ヤヌシュ・ガヨス、アンナ・ラドヴァン、セバスティアン・ファビアンスキ


上映作品の並びはミュージアムの作品展示同様に明確な意図があり、音楽のアルバムにおける配列の妙があることを毎月の特集で知る。今日の作品も広島におけるポーランド映画祭の最後を飾るにふさわしく、ドイツ人、ポーランド人、初めて知ったカシューブ人という西スラブ系の言語も含めた特有の文化を持つ人種が扱われている。


広島にポーランド国立民族合唱舞踊団「シロンスク」が来た時も、狭くない国土に各民族の衣装と踊りが多様にあることで驚かされ、昨日上映されて観なかった「COLD WAR あの歌、2つの心」に登場するマズレク舞踏団も「シロンスク」とは異なる国立民族舞踊団「マゾフシェ」がモデルであることを以前知った。この映画祭で上映された「月曜日が嫌い」の中でも、二つの民族合唱団がそれほど仲良くあるわけではないことが描かれていて、ポーランド語でない言語で話す老婆もいた。


インドや中国ほどではないが、ポーランドも各民族が昔から存在していて、今の国の中にもそれらの遺伝子が消えることなく根付いているのだろうと想起させる内容となっていた。


最近の映画作品らしい傾向と言ってしまえば、おそらく知識足らずの断定的な一面判断になるが、ドローンの動きの早さと自由さを持ったカメラワークがあり、人の手かもしれないが、ゆっくりズームする動きは過剰とならずに画面へ臨場感を与える。ただそれがあまりにも基本として各ショットに使われ、手持ちカメラでの人物の追跡や、壁を超えたパンショットに、同画面内の素早い向きの切り替えなど、巧みだからこそフランチャイズの味気なさもないことはなかった。こうなると個人の好みとなってしまい、貴族を舞台にした映画だからこその衣装の見応えや、みずみずしい土地の自然の美しさもあるが、どうも物足りなく思えてしまう。


2時間半に近い上映時間のなかで、各登場人物の描き方はやや弱く、もったいぶった科白はそれほどうまい効果を発揮しているように思えず、浮ついた白々しさが空気に流れることはたびたびあった。ただそれは、翻訳のせいかもしれないので、実際の言語を解する者ならば、音節がもつ固有の味わいが場面に合致するのかもしれない。


ただ、この映画は作品としての細かいほころびを指摘するよりも、各民族が同居するポメラニア地方の貴族を物語にした着想から学ぶべきことが多いだろう。フォン、という名が挟まれる家庭の中で、どうして孤児が引き取られ、どのように実子と分けられて育てられ、なぜ姉と弟の恋愛が美しいと執事に語り継がれると言われるのだろうか。そこには貴族が持つ体裁に特化したマナーと皮肉があり、慈愛の心が躾なのか、それとも上品な体面なのか、もしくは生まれ持った性情によるのか判別できないほど、高貴であるからこその面子が端々に描かれている。


二つの世界大戦が劇中にあり、スノッブらしい音楽や芸術家の名前も登場するなかで、やはりヒトラーとスターリンが家庭を崩壊させる。どうしてもこの時代を生きる者には避けられない大災厄が物語にとどめを与えてしまうようだ。


人によっては好みが分かれる小さくない作品で、ポーランドという国を知るには欠かせない物語として今後も記憶に残るだろう。

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