7月7日(火) 広島市中区中町にある日本料理店「はせべ」で飲んで食べる。

広島市中区中町にある日本料理店「はせべ」で飲んで食べる。


「南インドカレー食堂 カレーの木」さんでフィッシュカレーを食べる予定だったが、雨の影響で夜の営業はされないということらしく、「はせべ」さんへ行くことに決まった。


前回は太陽の冷めきらない夕刻のあかい光の中での飲食となったが、今夜は雨の弱まった静な梅雨らしい雰囲気となっていて、耳障りにならない民芸を感じる音楽が断続的に流れている中で、大笑いするような盛りあがりではなく、話してそこそこ弁じたりするほどで、発言の重なりあうようなテンポではなかった。


神石の冷酒から入り、安浦、竹鶴と燗へ進むのに併せて、だし巻き卵から始まり、一品一品に感激して食事していく。あまりに有り難がるような闇雲な感動をして、味のわからない多情な騒ぎ方かもしれないが、実際どれほどわかっているか常に自分自身こそ疑わしいので、体験したことのない新鮮な味わいに率直に感応するのみだ。発酵した濃い味わいのタコやイカには前回経験した旨味の大きさと深みを感じたが、鱧のフライの美味しさに豆の汁やタイバジルを合わせる発想と相性の良さや、昆布締めの鯛は噛めば噛むほど旨味が変化していくだけでなく、酒入りの梅の汁を合わせる風味の新鮮さなどは、とうもろこしの汁の立体的な風味の味わいにも共通する素材の持つ性格の具現化で、各野菜の真髄を体感するようだった。そして漬けものに、粒の立った炊きたての白米の美味しさときたら、互いが求め合ってしがみつくほどの吸引力と調和があった。


美味しい料理と酒にもたれかかって、ついつい時間を除外して長居したくなる空間の流れで、気づけば夜も進んで酔いもまわり、やや居過ぎな感を越えてからお店をあとにした。前にも書いただろうか。店主さんにとっては毎日来る客の一組かもしれないが、こちらはあまりない陶然する時間となっているので、その差異もわからずに浮かれて、知った気になり、偉そうなことを口走りそうになる。まだ二回目のくせに、慣れたような口調になりそうだから、美味しい酒と肴は自戒を狂わせる。


雨により来ることになったとはいえ、自分たちが帰ったあとに後かたづけがあるので、強く降って、大変にならなければと思ってしまう。こんな日は、店へ行く行為そのものを考えてしまうが、それほど悪いことではないだろうと一人納得するのは、家に帰っても「はせべ」さんの体験が増えたことに貴重な喜びが残り続けていたからだろう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る