7月8日(水) 広島市中区基町にある広島市映像文化ライブラリーでウカシュ・パルコフスキ監督の「ザ・ベスト」を観る。

広島市中区基町にある広島市映像文化ライブラリーでウカシュ・パルコフスキ監督の「ザ・ベスト」を観る。


2017年 ポーランド語 108分 カラー 日本語字幕 デジタル


監督:ウカシュ・パルコフスキ

出演:ヤクブ・ギェルシャウ


薬物中毒の青年の物語が始まり、違和感を覚える。描き方が一方的で、起伏があまりないというか、平凡に思えるほどありきたりな編集に見えた。「ドラッグはこういうもので、中毒者はこのような人だ、最悪になるぞ」、そのように語っているわけではないが、細部どころか大まかに疑問を持ってしまう場面設定と顔のメイク、それにストーリーの運びで、薬物使用に警鐘を鳴らすことを目的にした作品のように最初は思った。


「ロッキー」を思い起こさせる音楽の使用方法と短いカットのつなぎによる練習風景などもあるが、途中からこの作品に対しての好感が芽生えてきた。繰り返される治療室のベッド上での目覚めや、更正施設での懲罰のバリカン使用など、特別な工夫ではないかもしれないが、カメラワークの執拗さや、どのように処理しているのか疑問に思える髪の毛の扱いなど、平板の中に穿った点もないことはなかった。


それよりも、中盤にかけて主人公を演じるヤクブ・ギェルシャウに熱い気持ちを抱いている自分がいた。薬物中毒からの更生という物語にまっすぐ感化されて応援する心を持つようになったのは、何よりも演技力による同情だろう。ボンクラという呼称が似合う革ジャン長髪の男は、軽薄そのもの、かつ軟弱な心の弱さを持っていたが、まともに走れるようになった頃からの目つきが素晴らしく、映画であることを忘れて新生していく廉直な変化を見つめていた。こうなってくると、あのひっぱたくぐらいがちょうどよいと思われた長髪のキャラクターが布石としての効果を発揮して、痙攣や幻覚による禁断症状が真に迫り、克服に向かう心身への苛烈な攻撃が実に効いてくる。


そしてアイアンマンレースに挑むあたりから、これほど横道に逸れない復活の物語を映画作品とするには理由があるだろうと、事実を元にしていることを疑った。途中からそう思っていたが、むしろ、実際にあった物語であって欲しいと望む心があり、そう思わせる克己の闘争があった。


結果は予期していた通り望ましい形であって、スポーツの清らかさを映し出すアラバマの景観も作品を綺麗に飾っていた。ラストに向かう演出をどうこういうよりも、ぽろぽろ涙が出るよりは、まるで冷たいアイスを一気に食べて頭痛がやってくるように喉のつまる感涙となり、それこそがこの映画の感動を象徴する痛みの涙のようだった。


映画としての質よりも、事実を元にしたという重要な背景が大きくものを言う作品だろう。誰にだって依存する心はあり、自分でも、ゲーム、スポーツ観戦と、好きだからこそ離れたい趣味があった。スポーツの感動の熱さはまるで薬物のようだ、などと言えば語弊にしかならないだろうが、何かに取り憑かれて追い求める状態は、腐敗と発酵の違いのようで、向かう先によって変わると言ってしまえば、それまでになってしまう。ただ、何に向かって行くにしろ、自分に勝つことを基本にするなら、悪いことには決してならないだろうと教わった。

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