5月1日(金) 広島市中区紙屋町にある中華料理店「利萍」のこだわり弁当を食べる。

広島市中区紙屋町にある中華料理店「利萍」のこだわり弁当を食べる。


あからさまに言えば外出自粛を自分はしていない。店に入って短くない時間を過ごすことはなくなったが、暖かさに誘われて動き回っている。こんな人間ばかりだと、外出自粛の意味がなくなり、結果的に外は人々の活動で賑やかになってしまうのだろう。


我慢できていないだけなのだが、一日一度は必ず耳にするリスクという言葉で考えれば、自転車に乗って動き回るよりもスーパーやドラッグストアに入るほうが高いのではないかと考えてしまう。屁理屈だ。


それでも連休の活動を考えて、退勤後に日除けの帽子を探しにブックオフへ行くのだから、後ろ指をさされるマナー違反になるのだろう。あいにく、自前の衣類のほぼすべてを揃える行きつけの店の地下は閉まっていて、連休前のショッピングはおあずけとなった。ネットで買ってもいいが、だいたい失敗するのでなるべく目の前で品を選びたい。


ここまで来たら何もせずに家に帰るのも癪なので、店先のパラソルが目についた「利萍」で麻婆茄子の弁当と餃子を買った。


家に帰って食べるのも我慢できないので、平和記念公園のベンチで食べることにした。まだ夏前なのに、夏らしい長閑さが夕刻に漂い、カも寄ってくる中でハトやスズメもおこぼれを狙ってくる。ここのベンチは時折サギも飛んでくるから面白い。そういえば今日は職場の上空をトンビが声を鳴らして旋回していて、カモメと勘違いした。


この弁当のボリュームと味は、中華料理のテイクアウトはよほどのことがない限り失敗はありえず、世界のどの料理よりも弁当に合うことを証明している。うまい、この言葉は中華の為にあるようだ。


チャイナドレスのような赤い辛味が油と共に茄子に染みていて、全体として味わい深い艶がある。酢にも色気を感じることはあるが、辛味もやはり人を魅惑させる要素があり、日本の味でない醤らしい発酵豆の旨味に食感の残った甘いたまねぎや歯ごたえのよいキクラゲも合わさってとても食べごたえがある。さすが中華の弁当だ、値段のわりにレベルが高い。端のピーマンと支那竹らしき炒めものと、ザーサイの味もぴりっとしておいしい。そして白米が香る。日本の米だろうか、もっちりして甘く、中華料理店らしい独特の匂いがある。そして餃子は、やはり焼きたてが欲しいと言えば欲張りだろう。


カを避けるように体を揺らしながら汗をかいて食べていると、橋のほうから太鼓の音が始まり、拡声器による訴えがリズムよく連呼されてきた。警察官が集まっているからなにかと思っていたら、メーデーに合わせた人々の行進とリフレインだ。


こんな時に、疑問を感じる。疑問を感じる。無常なほどの疑問を感じる。安易な批判は頭を使わないことの裏返しとなり、批判をなくせば進み行く勇気の欠けた日和見とも思えるが、賛成も反対もない、ただただ観て考えるだけの傍観者として、食後に行進のあとを追って眺めていた。そもそもの答えを必要としない疑問だけが、医療従事者、安定した職、安全な労働環境、手当、無駄な政策、保護、いろいろと文句が叫ばれ、繰り返され、アベノマスクについてあてこすりのない虚飾なき文句が定型文らしくはまっていた。メーデーだ。


今日読んだ“子曰く、君子は諸を己に求め、小人は諸を人に求む”なんていう、教養人と知識人の責任を求める態度についての対照の言葉を思い出す。叫ぶよりもまず動く、それが肝心と思うも、動いて叫んでいる、さて。


外で食べる中華料理の美味しい夕刻だった。

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