4月4日(土) 広島市中区十日市町にある和菓子店「御菓子所 高木 十日市本店」でお雑煮セットを食べる。

広島市中区十日市町にある和菓子店「御菓子所 高木 十日市本店」でお雑煮セットを食べる。


そごう広島の地下にもある有名な和菓子店でありながら一度しか訪れたことがなく、昼に食べに来ようと思いながら1年か2年は経っているので、さくら餅の影響が消えぬうちに十日市探訪としてランチをとった。


若くないが男一人で来るのは珍しいのか、それとも昼前という時間のせいか、入店して奥の茶寮コーナーに案内されるまでわずかな戸惑いがあった。おそらく、気のせいだろう。


庭からは昼前の太陽が射し込み、黒と朱のテーブルとイスは色を増している。途中から二組やってきたが、それまでは一人だけの客として静かな空間のなかで向こう部屋へ顔を向けて、菓子を買って帰る様相を眺めていた。


赤飯にお雑煮という“めでたい”という単語が帯で付いてきそうな食事だが、いったい何がそうなのかと言えば、決り文句のように“自分の頭だけ”と答えたくなる。この調子は形式化されてしまい、他人よりも楽な自己卑下ばかり繰り返し、あとは妻か両親を主に、家族や親戚ばかりを話題にする。範囲が狭く、やり方も似ているので、もう少し変わったことができないかと考えてしまう。


赤飯はもち米と赤豆で、お雑煮は出汁と餅だ。なんて一風変わったように書いてみようと思うも、頭がおかしくなったのかと自分を疑うことさえ窺ってしまう。


すまし汁と違ってより豊かで滋養を持つ雑煮の出汁は、ちびちび飲みながら飲み干してしまいそうになる。しめじや小蕪は素材の風味が素直にあり、しいたけは甘く味付けされていてお菓子のように強い味わいがある。そういえば昔はキノコが大嫌いで、干し椎茸を戻す香りが実家に漂っていると、何度も鼻をつまんでそっぽを向いた。今ではこの風味が好ましく、重いしいたけは麺が柔らかくなるような進行で出汁に味を加えていく。だし巻き卵も同様に朗らかに甘く、鶏肉は昨日食べたラーメンと異なってぱさついた繊維質が雑煮らしく似合っていて、少し焦げの香りをまとった餅はモッツァレラのように伸びに伸び、生麩も蒲鉾もそれぞれ異なった歯ごたえと落ち着いた味わいで、ミツバと山椒の葉が苦味と薬味で添えられていた。


赤飯も嫌いだった。噛めば噛むほどもち米の甘さが膨らみ、口の中でついている気分で何度も咀嚼する。豆がどうしてあるのかわからなかったが、今もそれほどわかった気ではいないが、控えめながら味わいをもち、塩と胡麻を救いのようにふりかけていたのを思い出す。ニンジンは薄く風味をもってささやかな乳酸をもち、胡麻のきいた緑は大根か蕪の葉だろうか、大根は消化作用を持った辛味が強く残りながらシャーベットのようにしゃりしゃりして水気がある。


そして苦味を持った香り良いほうじ茶に、洋菓子にはない比重を持つわらび餅の水を広げる自然な甘さが口を覆った。さすが御菓子所だ。


一段落着くと頭は空白のなかであちらこちらに動き回るものだ。茫々としているようで、余裕を持って探し回っている。エンジンだけはしっかり動いている。


食事は急いでとらずも、目は時計をちらちら見ている。そろそろ正午になるから、目当ての菓子店も開くだろう。次へ次へと目移りしてしまう、それでも、おろそかにしなければ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る