3月15日(日) 広島市中区十日市町にあるイタリア料理店「マンジャーレ」でBランチセットを食べる。

広島市中区十日市町にあるイタリア料理店「マンジャーレ」でBランチセットを食べる。


最近妻が“CASA”という単語は、イタリア語でも“家”という意味かと訊ねてきた。スペイン語ならそうだから、おそらく、と答えると、なにやらとても笑っている。その理由はスマホの画面にあり、ロンリープラネットの表紙にCASAというアルファベットとパンのスライスされた写真が載っている。いったい何がおかしいのだろうか。けらけら笑っている横で合点がいかずにいると、流行病の影響で外出できないから、こんな諧謔が生まれたらしいとの説明が。それでも、何が楽しいのかあまりわからなかった。おそらく、“地球の歩き方”は読めるが、“ロンリープラネット”を読むのが苦手だからだろう。ちなみに妻は逆だ。


イタリアが深刻な状況に陥っているが、ヨーロッパでは昔から大流行した病があるのは歴史の勉強でも知っており、ブレヒトの戯曲作品でもガリレオがペストの猛威のふるう閉鎖された状況で奮闘していた。外出のままならない大変な事態であっても、歌や踊りを忘れないという今のイタリアの話を昨日聞いて、実際に意識が消滅する直前まで人生を謳歌する太陽の姿勢に感銘を覚えた。


だからイタリア料理を食べに来たわけではないが、最近食べた「ラ・フォンダ」のパスタの味がきっかけになったのは確かだ。家の近所のこの店には前にも入ったことはあったが、予約の団体客で埋め尽くされていたので、その時は食べる機会を得ることはできなかった。


ラジオでは広島の卸売業や外食業から助成金についての問い合わせが役所に増えているとあり、実際に営業時間を減らしている店の話も聞いているので、劇も映画も少ないこんな時にこそ余力を食に費やしている。言い換えれば、普段は人に混んでいて入れなかった店も、もしかしたら予約せずにふらっと入れるかもしれないということでもあるが。


掃除の行き届いた店内と愛想の良い接客とは決して言わないが、常連さんに愛されている大切な店だというのは1時間に満たない滞在でとても伝わってきた。


酸味の控えめで甘みの目立つコールスローサラダは歯ごたえが良く、チーズとニンニクのドレッシングが器の底にある。クリームのパスタは、茹であがりはいくぶん柔らかく、たっぷりのソースは生クリームよりもミルクの甘さがあり、脂肪分よりも水分の多いくどさのない味はシチューのような親しみがあり、粗挽きの黒胡椒に薄切りのベーコンが香り、マッシュルームが味わいを増やし、スプーンですくいきる頃に卵の甘さも実感する。パンはバゲットらしい気泡を久しぶりに味わい、明るい小麦のおいしさがソースに良く合う。デザートは、ブルーベリーやクランベリーなどの煮詰められたゴージャスな紫色のソースがバニラアイスに襲いかかり、口に入れたときに紅茶と錯覚するような艶の良い香りがあった。冷凍の食材ではあっても、調理中にワインらしき香りがのぼったように錯覚した瞬間もあり、火で作られたばかりの手間が味わいを加えている。


常連客と親しく会話していて、この場所がまるでイタリアのよう、などといったら無遠慮だろう。しかしかしこまって食べるイタリア料理ではなく、女性が好みそうなパスタというイメージとは異なり、若くない男性達が賑わう素朴なイタリアらしさがあるようだった。


パスタもデザートも人によっては多いと思われるソースだからこそ、少しかけるような洒落た味わいではなく、ほらどうだ、くえ、くらいの太く真っ直ぐな味わいがあった。見習うべきは、どんな時でも心構えだろう。愚痴や文句を言っても始まらない、歌を歌ってこそ人生は動き出すだろう。

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