2月27日(木) 広島市中区基町にある広島市映像文化ライブラリーで今村昌平監督の「にっぽん昆虫記」を観る。

広島市中区基町にある広島市映像文化ライブラリーで今村昌平監督の「にっぽん昆虫記」を観る。


1963年(昭和38年) 日活 123分 白黒


監督:今村昌平

脚本:今村昌平、長谷部慶次

撮影:姫田真佐久

美術:中村公彦

音楽:黛敏郎

出演:左幸子、岸輝子、佐々木すみ江、北村和夫、小池朝雄、相沢ケイ子、吉村実子、北林谷栄、桑山正一、露口茂、東恵美子


残念なことに広島市映像文化ライブラリーは2月29日から3月15日まで映画の上映は行わない。“海を超えた喝采 国際映画祭受賞作品の特集”が来月も続く予定だったので、日本の誇るべき優れた作品をスクリーンで観る機会は失われてしまう。特に楽しみだったのが今村昌平監督の「楢山節考」で、広島市民劇場4月例会にて劇団1980が素劇「楢山節考」を上演することになっており、座長であり出演予定の柴田義之さんは横浜放送映画専門学院を卒業していて、その学校は今村昌平監督が開校したという繋がりがある。2つの「楢山節考」から通底する要素を見つけたかったが、こんな状況では息を潜めるのみだ。


今日と明日の映画を観たら半月休むことになるので、少し心が寂しく感じている。しばしのお別れを名残惜しく思うように真面目に観ようと構えるも、どうも少し難しい作品のようだ。上映開始後に入場して、「あゝ野麦峠」を思い出させる繭から糸を引く女工たちや、「馬」と重複する暗い家屋と強い訛りに慣れることができず、物語をつかめずに次々とシーンは展開していく。


やっと映画に慣れだした頃には中盤となり、なんのためらいもなく年月を進ませていく構成と、撮影の苦労など考えさせないほど生々しいカットに、時たまとても長いワンカットも挟み込まれている。深刻な場面ではあるのに、突然素っ頓狂な楽器がころころと鳴り、はぐらかされているような気分になる。「浮雲」や「女の一生」のような一人の女性の波乱ある人生が描かれているのだとようやく気づき、ファーブルという言葉と混ぜた「にっぽん昆虫記」という題名が寓意としての名であり、それに囚われていたと理解する。


ズームのまま逃げる人と追いかける人間を素早く追跡するショットがあったり、静止画の連続によって一場を想起させる編集もある。役者にむき出しの肉体を迫る今では考えにくい演出もあり、病床にいる父親に自分の柔らかい乳房をさらけ出すショットは官能的でありながら、背景の人物の立ち位置と入り口からの採光も加わり、夢うつつの怪しい関係が許されるべきことを表しているようにさえ思える。


アクの強いセリフと豊かでたくましい性格の登場人物や、人物に焦点を当てたカメラワークと作り物らしくない演出も優れているが、この映画はやはり左幸子さんの作品だろう。力強さをもった面貌は時代と環境に合わせて変化していて、声音や演技などに瞬間的な性質の切り替えをはっきり伝える反射神経が見受けられる。


今村昌平監督の個性はまた独特なのだろう。この作品でそう感じて、やはり「楢山節考」が惜しまれる。

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