1月24日(金) 広島市中区基町にある広島市映像文化ライブラリーでエリック・ロメール監督の「海辺のポーリーヌ」を観る。

広島市中区基町にある広島市映像文化ライブラリーでエリック・ロメール監督の「海辺のポーリーヌ」を観る。


1983年 91分 カラー DVD 日本語字幕


監督・脚本:エリック・ロメール

音楽:ジャン=ルイ・ヴァレロ

撮影:ネストール・アルメンドロス

編集:セシル・ドキュジス

出演:アマンダ・ラングレ、アリエル・ドンバール、パスカル・グレゴリー、フェオドール・アトキン、シモン・ド・ラ・ブロス、ロゼット


一昨日の作品は冒頭から観ていないからわからないが、昨日と今日は始めと終わりで物語はうまくループしている。最近読んだ本からの印象を借用すれば、それはバッハの平均律クラヴィーア曲集のように主音から生成され、いくつもの声部へと派生して様々に展開しては縦横と織物のように描かれ、再び主音に帰結するという構造を想起した。それは多くの要素が含まれる作品の中で、限られた範囲と点だけに今の自分の関心事を当てはめているだけに違いないが、それぞれ多面的で人間らしく生動する登場人物のやりとりを観ていると、やはりそういう印象を浮かべてしまう。


暗示的なセーラー服の青い襟や、胸も透ける肌に張り付く薄い生地の水着など、衣服が語る登場人物の性格要素はこの作品にも含まれていて、それらはとある台詞で呼応している。また服ではなく体型と皮膚も同様で、やけに露出の多いシーンが前半に目立っていると思うも、ラファエル前派の絵画を繰り返し思い起こさせる彫刻刀で削いだようなブロンドの顔に、尻と腰が左右に揺れる歪みのない曲線の完璧なプロポーションなども、この映画の主題を述べる要素として存在を発揮している。


前半から尺の長いショットで登場人物の会話は発生していて、主要となる性格を真面目に説明するような恋愛観も述べられる。定住と束縛、不定住と自由など、昨日の映画の副題とでもよべる近代的な個人意識が顔を出すも、それらは現代に生活する都会的な人間にはなんらおかしいと思わない普遍的な価値観で、同棲や結婚、それに不倫や自由恋愛など、表現の自由同様に個人を妨げない為の権利として主張されるようだ。


結局この映画で語られるのは蓼食う虫も好き好きで、色の違う糸が互いに出会い、進んで絡み、些細な事件と誤魔化しによって複雑にもつれ合うも、次第に糸は網目を整えていく。悪党らしい賢しさも、堅実な優しさも、魅力的な姿態も、たとえタイプであってもなくても、昨日の作品の言葉を一部借りれば、惹かれなければただそれまでで、虜にされればすべてなのだ。こんなのは日常生活に具体例として多く溢れている。勇気の欠如だけでなく慎みも持たない恐怖から起こる他人への嘲笑と愚痴しか言えない人間に、とある人間は強く惹かれたりする。自分にはとても理解できないが、そこには異性だからこそ感じられる弱さへの保護と見た目からの魅了があるのだろう。そんな例は実生活に枚挙できるものの、この映画作品はその個人的な性格こそ尊重されるべき人間の本質であり、どうにもならないと表している。


取り繕う為の嘘が、意外にその人物の誠実さを引き出したり、おせっかいやきに告げ口させる。またそんな嘘が人を傷つけるも、最終的に互いに信じるべきことを信じましょうという、素晴らしい笑顔の生まれるショットに行き着く。ここに自他共に人間として強く生きる為の大切な要素が輝いている。


夏のヴァカンスのこの映画は、昨日、一昨日同様に、示唆ではなく、事細かな恋愛の授業によって、ただ生きるだけでない個人を光と影で教えてくれている。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る