1月23日(木) 広島市中区基町にある広島市映像文化ライブラリーでエリック・ロメール監督の「美しき結婚」を観る。

広島市中区基町にある広島市映像文化ライブラリーでエリック・ロメール監督の「美しき結婚」を観る。


1982年 100分 カラー 35mm 日本語字幕


監督・脚本:エリック・ロメール

出演:ベアトリス・ロマン、アンドレ・デュソリエ、アリエル・ドンバール、フェオドル・アトキーヌ、ソフィ・ルノワール


作品名から構えて観ることになった。その名の示す内容があるわけないと疑いながらも、そんな物語だったらきっと幸せな気持ちで劇場を後にできるだろうという希望もあった。板挟み状態ではないが、現実を直視しながら夢を見るような鑑賞態度となり、それは冒頭のフォンテーヌの言葉の引用そのものが自分に当てはまったようだ。


同じ監督だから昨日の作品と姉妹と思われる作風だった。叙事的な大きさはなく、男女関係に焦点を当てた演劇的な演出となり、昨日同様に会話の妙はあるも、よりファッションと旅行の要素で飾られていた。昨日観た映画にも、レインやトレンチなどの女性コートが印象的に使われていたが、この作品はより当時の雰囲気を感じさせるパーティーの衣装や、マフラーの巻き方、素材の異なる女性コートが登場している。また舞台も、昨日はパリのうるささとビュット・ショーモン公園の憩いとカフェだったが、今日は敷石道と坂の旧市街が素晴らしい風情にあるル・マンを舞台に、秋枯れした水車小屋のレストランに、水気のある落ち葉と赤い葉の蔦などもあり、主人公の女性の働くアンティークの店や、古風でありながら進歩的な面も示す矛盾した性格の根っこが風景に表れていた。


若い学生の焦りから生まれたような男女の物語は、描くよりも多くが登場人物によって語られ、女性と芸術家の理想とあるべき姿が観念として主に会話される。日本の女性同士の会話ならばおそらくとってつけたような借り物の思想に見えたかも知れないが、多くの哲学者を生み出している国の土壌では自然にも見えないことはない。


この映画の可愛らしいところは、結婚相手もいないのに結婚すると周りの人に言明する各ショットで、そこで年輩の女性はあざけるのではなく、“若いわねぇ”とでも言って過去の自分をかいま見るような間が透けるようだ。それは自分の理想と生活の為の現実にけじめを着けて有るべきところに落ち着いた皺が、戻れない昔を追憶する優しさと冷酷さも含まれているようだ。


冒頭の車窓からの差し込み、後半の事務所を出た際の建物の明暗、車窓に立つ横顔のショットの笑み、そしてラストの哲学者らしき面相の人物にあたる光など、台詞は多いが言葉のないショットにおける語り口にも当然として心境が表れている。


折り合いをどうつけるか、悩み、模索続けて成長する若い人間の機微が古い街を舞台に、思想をぶつけあう。女は熱があり、男は冷めていた。それでもロックのような音楽の流れる若者のパーティーで、階層の異なる男女が社交ダンスを踊るショットには、希望を予感させる通じ合いが見てとれるようだったが。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る