12月20日(金) 広島市中区基町にある広島市映像文化ライブラリーで山本嘉次郎監督の「綴方教室」を観る。

広島市中区基町にある広島市映像文化ライブラリーで山本嘉次郎監督の「綴方教室」を観る。


1938年(昭和13年) 東宝映画(東京) 86分 白黒 35mm


監督:山本嘉次郎

脚本:木村千依男

原作:豊田正子

音楽:太田忠

撮影:三村明

出演:高峰秀子、清川虹子、徳川夢声、小高まさる、水谷史郎、滝澤修、赤木蘭子、三島雅夫、本間敦子


約80年前の映画ではあるが、卒業アルバムのクラスページで生徒自身が写真を切り抜いてコラージュするように、手作りのタイトルロールに目新しさと面白さを感じた。舞台となる土地もわざわざ地図で解説され、今は見ないフォントと漢字で“葛飾区”と書かれていて、その近辺に住まわっていなければ知ることはなかったであろう“四ツ木”という耳慣れた所が指された。


長くない上映時間でも経つのは早くなく、決して退屈するわけではないが延々とした流れのないこともなかった。見どころは変わらない荒川の大きさと岸辺の植物に、雨が降れば泥でぬかるむ通りの貧しい家並みと、寒風の中でも裸足で暮らす少女の高峰秀子さんだ。叩く、機嫌が悪くなれば子供に怒鳴り散らす、貧しい家庭に特有の荒っぽい家族関係は各国共通であることを、フランスやイタリアのモノクロ映像が兄弟のように近づいてくる。ただしこれは優しい作品だから、切実な点もあるが、痛ましい現実感はそれほど迫ってこない。


驚くべきは高峰秀子さんの演技で、あどけない少女の身なりに特有の自然な芝居がすでに備わっており、「いやよいやよ」としかめる顔と声の調子は、その時代の女性が持つ特徴ではあるにしても、大人になってからもそのニュアンスは変わっていない。もう偉大な俳優が出来上がっていると、その当時の新作は大女優になることを知らないはずも、もう約束されているように見えてしまうのは、先月に成瀬監督の作品で様々に観たからだろう。


昔の人なら懐かしいと思う映画と原作だろう。もはやヴィンテージの雰囲気漂う風景に、それだけで自分は満足してしまう。

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