11月23日(土) 広島市中区加古町にあるJMSアステールプラザ・大ホールで「広島ウインドオーケストラ 第52回 定期演奏会 ネリベル生誕100年記念」を聴く。

広島市中区加古町にあるJMSアステールプラザ・大ホールで「広島ウインドオーケストラ 第52回 定期演奏会 ネリベル生誕100年記念」を聴く。


指揮:下野竜也

バスバリトン:加藤宏隆


ネリベル:交響的断章

ネリベル:2つの交響的断章

ネリベル:クロノス

ネリベル:シンフォニック・レクイエム

アンコール

プーランク:平和のためにお祈りください


前回公演で広島ウインドオーケストラを聴いてから、すっかりこの楽団が好きになってしまった。普段足を運ぶコンサートや持っている音源など、自分の生活範囲から隔絶されている吹奏楽の楽曲は、作曲家の名前を聞いたこともなく、純粋に新鮮な発見を与えてくれる。


今日の演奏会でとりあげられたヴァーツラフ・ネリベルも知らなかったが、楽曲を聴いて自分の知っている作曲家が連想されるも、この音楽家独自の確固とした芸術表現が存在していた。


前半の曲が始まってすぐに気分は高潮した。チューブラベルの音色が目立って響き、前日に「展覧会の絵」の「キエフの大門」で聴いた味わいがこの日は遠慮なく使われていた。それに鉄琴も激しく奏されていて、これに半音階と不協和音の目立つ音楽が、戦争の時代を生きてきたショスタコーヴィチの暴風と瞑想的な暗黙を想起させられた。チェコ・スロヴァキア生まれで、プラハ・チェコ大学、プラハ音楽学校に進んだ作曲家の出自から、スラブの要素と第2次世界大戦とソ連の影響を探すも、それ以上に個性的なオーケストレーションがあり、吹奏楽という言葉を聞くと、ついマーチングバンドを思い浮かべてしまっていたが、そんな固定観念とはかけ離れた要素を持つ一筋縄ではつかみきれない多面性があった。


下野さんの丁寧で愉快な解説があったので、ネリベルという作曲家について簡単に知るも、主に使われるD音の性格についての説明や、グレゴリオ聖歌などの教会音楽の旋法という言葉を感覚として持たないので、この作曲家の特性を感じきるのはとても無理だが、想像をかき立てるような曲名を好まなかったという話などから、少しは音楽家の性格を伺い知れるようだった。


素っ気ない曲名が常と説明されるなかで、「クロノス」と「シンフォニック・レクイエム」は楽曲としての特異性が際立っていた。普段聴くクラシック音楽でも違和感なく演奏会にとりあげられる質を持ち、古典的な現代音楽という範疇でも名品になりそうな音の組み合わせがあり、ただ難解なだけでなく、村上泰裕さんの曲目解説にもある“不協和音で高まったテンションを調性の中心音に一気に帰着させる手法は追従を許さない。”という通り、芯の通った音楽性の中でバランス良く構成されていて、退屈な感じはしない。ショスタコーヴィチ同様に、ただの暗さにとどまらない、神に通じる崇高な祈りの要素を持ち備えているように聴こえた。特に小さくない編成の中で「シンフォニック・レクイエム」の第2楽章の木管楽器だけのモテットには、大作曲家と呼ばれる音楽家に立ち並ぶだけのものがあった。


アンコールはプーランクの優しい声楽曲で、存在感のある加藤宏隆の太い声で慎ましく歌われていた。バス・バリトンを生で聴く機会はなかったので、ただ低いだけでない声のもつ温かみを感じられた。


広響同様に下野さんのあの親しみを持たせる間合いの語り口で、楽しく理解を得ながら演奏会を聴くことができた。吹奏楽にはまだまだ素晴らしい音楽があるのだろう、知らない分野の世界を少しずつ広島ウインドオーケストラで知って味わっていきたい。

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