11月22日(金) 広島市中区加古町にある広島文化学園HBGホールで「第35回〈ひろぎん〉トゥモロウコンサート」を聴く。

広島市中区加古町にある広島文化学園HBGホールで「第35回〈ひろぎん〉トゥモロウコンサート」を聴く。


指揮:角田鋼亮

ピアノ:牛田智大

管弦楽:広島交響楽団


リスト:ハンガリー狂詩曲 第2番

ショパン:ピアノ協奏曲 第1番 ホ短調

ムソルグスキー:組曲「展覧会の絵」(ラヴェル編曲)

アンコール

ショパン:24の前奏曲 第24番

ドヴォルザーク:スラブ舞曲 第8番


7、8年前のNHKのラジオに牛田智大さんが出演していた。その時は、君、と呼ぶべき子供の声で、何の曲を演奏したか忘れてしまったが高い技術に驚いたのを覚えている。それからネットで姿を見て、女の子ではないかという可愛らしさにちょっとしたファンのようになってしまった。


広島で聴く機会は他にもあったが日程が合わなかったのか、今回初めて演奏を目にすることになった。パンフレットの姿はもはや青年で、少年時代の中性的な印象は抜けてしまい、登場した姿もすらっとした男前となっていた。


演奏する曲はショパンのピアノ協奏曲第1番で、つい前に清水和音さんと下野竜也さんで聴いたばかりだ。最近イヤホンで聴くことも多くなったので、比べる基準を持った曲となっている。率直な感想としては、牛田さんの演奏は高い技術が目立つも、音の好みで言うとあまりにキラキラした印象があり、清水さんは1階席の近い場所で、今回は2階席の中間という違いがあるも、骨身のある音色が少し乏しく、第1楽章の早いパッセージでは綺麗に流れていくのだが、音量が弱く、表現としての強さは大きく思えなかった。この日のRCCのラジオで、週の中で健全に楽しめる番組である「週刊 田中宏」のなかで、参加もせずに偉そうに言う外野の声に対しての話があり、自分はまさにその一人として所感を持っている。清水さんの音色には真摯であるからこその冷徹な音色を感じたが、牛田さんにはその恐ろしさのような一音が見当たらず、優れて華麗なのだが薄弱な面が常に付随していて、心情に突き刺す説得力が足りないようだった。とはいえ、小さい頃に知ったレベルの高さが念頭にあるからその分だけ期待するものが高く、また、歴史に名を残すピアニストや日本を代表する円熟の奏者と比べるにはまだまだ若いから、高い技術に人間的な重みや経験が加わって素晴らしい成長を遂げていくのだろう。


角田鋼亮さんの指揮は、牛田さんのピアノの印象とは反対に重厚感のあるアクセントとフレージングで、下野さんの指揮よりも足取りのしっかりした進行だった。頼りになるオーケストレーションは粗野ではなく、整然とした性格を持ちながら細かいニュアンスを解する相反するような面を含み、腕の長い巨人が肩に小鳥を乗せながら、鳥の巣を静かに守るようなおおらかな印象があった。


リストのハンガリー狂詩曲で民族的なニュアンスを丁寧に描き出す手腕とオーケストラのドラマティックな展開を聴いて、この人は良い指揮者だと期待していたとおり、ムソルグスキーの展覧会の絵で、編曲したラヴェルの技量とその色彩感を初めて接したような気がした。パンフレットに書いてあるとおり、「プロムナード」から「こびと」と続いていく解説を照らし合わせて聴くと、なじみのある音楽の表現する意味がたやすく一致することができた。交響曲と違って断片的な構成を持つ組曲も、こうして聴くと、展覧会で歩き、絵を前にする一連の風景がありありと感じることができる。


「古城」でのファゴット、サックス、そしてバスクラリネットが良く、オーケストラに溶け込んでなかなか聴きとることのない音色が、静かに、だが、重みを持って鳴り響いていた。それからの弦の劇的なフレージングも高らかではないが、大きく伸びて、悲痛さえ感じるほどだった。木管を主に管楽器の引きだし方がとても素晴らしく、各曲の印象を巧みに描き出していた。小太鼓や鐘、銅鑼などのパーカションの塩梅も良く、こんなに豊かな世界が広がる曲なのだと驚かされるばかりだった。


外野が吠える対象は常に外野の何十倍も努力してきてステージに立っているので、黙って聴いていなければならない。そんなわけではないが、観聴きする者は前に立つ人物に対して敬意を持って、正当な評価と発言を心がけないといけない。とはいえ、個人の感性が大きく左右するので、正解があるとも言い切れない。


一度きりの舞台ではないから、次はどんな姿が登場するか、想像ではなく経験をもとに次を楽しみにしようと思う。

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