11月9日(土) 広島市中区八丁堀にある広島YMCA国際文化センター国際文化ホールで「柳家三三独演会 ニッポンあちらこちら 2019」を観る。

広島市中区八丁堀にある広島YMCA国際文化センター国際文化ホールで「柳家三三独演会 ニッポンあちらこちら 2019」を観る。


五目講釈

橋場の雪

大工調べ


RCCラジオで何度も告知されていたが聞き過ごしていて、数日前にとある媒体で気づき、ウィキペディアで調べたついでにチケットを衝動買いした。


広島では落語を聴く機会があまりないと去年は思っていたが、それは知らないだけであって、今年はテレビで知るような有名な人も結構来ている気がする。落語ブームという話も聞くとおり、公演回数は増えているのかもしれない。


10数年前から落語を聴き始めたといっても、生の噺を観に行くようになったのは最近だから、流行のど真ん中で流されているような形になるのだろう。三三さんはマクラで、浅草演芸ホールに来るお客さんの平均年齢は、日本の平均寿命よりも高いと言っていた。それに比べると広島の客は若い人が多く、落語家の名前を出した話にもどっと反応するから、詳しい人は少なくないのだろう。


先々月に観た柳家小八さんはマクラで師匠の喜多八さんを話し、亡くなられてからは小三治さん門下になったとあった。本当か嘘かわからないウィキペディアでは、三三さんは落語研究会などの経験がなく、師匠である小三治さんの芸風そのままを受けているとある。


小八さんと三三さんは共に背丈のある細身の体で、こざっぱりした顔立ちに、声に渋さがある。これは小三治さん門下に共通する要素だろうか。小さんを師匠とする呉で観た花緑さんとは少し異なる気がする。うろ覚えだからほとんどあてにならないが。


落ち着きのあるマクラで、派手に笑いを引き起こすのではなく、淡々とした語り口をにやにやしてしまった。飄々とした間がよく、だし道楽の自動販売機についてもそれほど面白い内容ではないが、実際に口にしたことがあるような口振りだから、硬貨を投入して茶や水のようにペットボトルを口にしたのだろうかと想像してしまった。


生で観た少ない噺家のなかで最も江戸っ子らしい粋があり、小田原出身という小田急線による親しみを感じつつも、山に入るような山梨や静岡と違って神奈川ならば江戸らしい雰囲気もあるだろうと思うも、江戸っ子は三代続かなければ名乗れないと聞き、有名な落語家の例を話されて、芸とそれとは異なると笑った。蒲鉾と板についてのくだりも、すんなり飲み込めるほど品のある芸風だ。


仲入り前は、派手に飛ぶことのない演目で大きく笑わせる箇所も多くはなかったから、寝ている人は目に付いたものの、味わい深い内容だった。「五目講釈」では素人講釈の軽妙な語り口は気味がよく、内容のおかしさを見過ごしてしまいそうな流れるような上手さがあった。「橋場の雪」では若旦那の夢見心地の情景が色っぽく、それを聞いてしつこく泣くお花の女っぽさが愛らしく、真剣に心配する親父のそそっかしさが立ち、三者の位置がおかしかった。この2つの演目は、商家の若旦那ということで括ったのだろうか。


「大工調べ」は生で聴いたことはないが知っている噺で、大家と与太郎、政五郎のやりとりが実に巧みな演じかたで、江戸の町人そのままの雰囲気を感じられるようだった。特に因業な大家の性格が顔によく現れていて、融通がきかない神経質な人間が持つ見開かれた目に焦点が合わさった。政五郎の気風の良い語り口がすっとするようでいて、サゲまでの展開も、講談と違って落語は中身がないなんて三三さんは言っていたが、公演後まで残る確かな世知が詰まっていた。


ウィキペディアの内容は間違っていないようだった。品格のある一つの江戸落語の姿をありありと感じることのできた寄席だった。

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