11月1日(金) 広島市中区基町にある広島市映像文化ライブラリーでロベール・ブレッソン監督の「抵抗─死刑囚の手記より─」を観る。

広島市中区基町にある広島市映像文化ライブラリーでロベール・ブレッソン監督の「抵抗─死刑囚の手記より─」を観る。


1956年 フランス 100分 モノクロ デジタル


監督・脚本:ロベール・ブレッソン

原案:アンリ・ドヴィニ

撮影:レオンス=アンリ・ビュレル

音楽:ウォルフガング・アマデウス・モーツァルト

出演:フランソワ・ルテリエ、シャルル・ルクランシュ、モーリス・ビーアブロック、ローラン・モノ、ジャック・エルトー、ジャン・ポール・デリューモウ、ロジェ・トレルヌ、ジャン・フィリップ・ドゥラマーレ


文句無しに一等の映画作品だった。チラシには実話を基にしたサスペンス・アクションと書かれているが、モーツァルトのハ短調ミサ曲によるタイトルロールが終わってから終始一貫して脱獄へ向かわれる物語は、自分の中のカテゴリーによるアクションもサスペンスもなく、飛び切りの映画芸術としての範疇にあった。


段階的に脱獄へ向かう構成は目の覚めるほど淡々としたもので、事実からのモノローグが詩情や叙情性を欠いた説明的であればこそ、研究や実験に見られる繰り返しによる前進が虚飾なく描かれて、説得力は極限まで高められていた。


ただそれだけでは単に脱獄映画の解説になるだろうが、この作品の素晴らしいのは意識の階層に重く帳をかける音の効果で、軽率なスリリングをエフェクトするBGMなどなく、周回する自転車の音や、奇妙な夜鳥の鳴き声、存在を掻き消す電車などが臨場感などの言葉では済まされない麻薬的な影響を醸していて、作り物ではない仕草の演技がやけに生々しく、そこに、これこそズームアップの最良の見本の一形態ともいうべきカメラが挟まり、的確かつ緻密に編集され、脱獄への行進を一歩一歩と逡巡や苦悩を混じえながら緊張感でもって冴えていく。


ここには古いモノクロ映像だけが持つ特別な芸術性があり、ニトログリセリンをトラックで運ぶような、もしくは敵陣に忍び込むべく夜の沼地を船で漕ぐような独特な空気感があり、これは単色の画面と余計な音楽のない優れた映像だけがもつ固有の美なのだろう。


唸る、そんな言葉が当てはまる作品だった。固唾を呑む画面のなかで、静寂が冷たく燃えるように感覚は開かれていた。上映後の、街、川、夜の音がどれほどに感じられたか。何気ない一つ一つの音にいかに神経が研ぎ澄まされているか、自分の体で体感してこそ、この作品の確然とした質を思い知るだろう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る