前のエピソード――９月７日（土）広島市中区基町にある広島市映像文化ライブラリーで豊田四郎監督の「駅前旅館」を観る。

広島市中区加古町にあるJMSアステールプラザ中ホールでDDK dance create【GUAPA.11】「Bug-Bug2 ─ラポール・命の限り─」を観る。

プロデュース・構成・演出：玖島雅子

脚本・演出：中村房絵

振付：玖島雅子、MARINA、KAZZ、中川友里江

バレエ振付：播野尚子、馬越恵理

ジャグリング：あそびとC

出演：

【ダンス】DDK dance create、DDK OB、JJD

【バレエ】バレエ・スタジオ・アンダンテ、バレエワークス

【演劇】天辺塔、劇団Tempa

滅多にないほど考え事をしていて、また簡単に解決できないから、今日の舞台を観る自分の存在ばかりだった。上の空でも、見たことのある役者さん達の演技が始まり、進んでいき、取りこぼしを実感しつつも、これはしかたないと思った。

様々なジャンルの音楽に合わせて、衣装の可愛い花や蝶、てんとう虫、ダンゴ虫、トンボ、バッタが踊っていく。子供は本当にかわいい。大人を見てどうこう言うのではなく、子供はそのままの姿が許される。動きが合わなかったり、目線がきょろきょろしても何もない。ありのまま成果が発表されれば、子供はそれでいいのだろう。考え事をつい舞台に置き換えてしまう。

クラシックバレエも、陽気な音楽やアイリッシュらしい曲調に合わせたダンスでも、小さい子が衣装を着て懸命に踊る元気な姿は、子供も孫もいない自分でさえも、観に来ている家族の思いを重ねてしまう。自分にとっては大したことでもないのに、何年も何年も同じように思い返して昔の自分を話す父親の存在を思い返し、「そんな大袈裟な……」という言葉が、今の自分に理解できてしまう。晴れ舞台は親孝行なのだろう。

第２部になると、舞台の質は上がり、劇も踊りも、観ている子供や老人には多少難しく思うところもあっただろう。ハチの踊りで格好良いヒップホップダンスを見て、高校生の自分が踊りだし、考え事を昔と今に重ねて、舞台上は緊張するだろうに、子供たちはよく頑張っている、みっちり練習したのだろう、振付も楽しいが一つ一つをつないで行く作業は大変だし、動きを覚えるのも簡単ではない、などと普段では考えないことを見てしまう。

クモの踊りで、コンテンポラリーダンスとしての異質な動きに情感は素直にくすぐられ、劇の進行で、蟻との対話そのものへの問いかけに、閉塞感の中での昔の自分の発露が重なった。チェロだろうか、暴力的な音楽とスクリーンに巨大化された影と蟻の演出は迫力があった。

最近見たアシナガバチの巣を急襲するスズメバチのインスタグラムを、「ラポール」場面のスクリーン上から思い出し、深夜の、終電もない２４６沿いの六本木の小さなクラブの、客も少ない、知り合いで構成された空間での、翌朝にそのまま観に行こうとしていたモディリアーニ展の為に仮眠する前に、アンビエントが大音量で流れて、スクリーンに映し出され続けた大自然が思い出された。玖島さんの動きがとても素敵だった。

上手なパッチワークの舞台だった。町田大道芸のくるくるシルクを浮かばせたてんとう虫のカラーコーンが宙に舞い、巨大なゴムボールが舞台と観客席を弾み、雑念と一緒に何だか浮遊する気分だった。この舞台に登場したすべての人の、この日に至るまでの稽古を考えて、てんとう虫やバッタそのものの子供達も、自分にとっては眩しいほど大きく思えた。子供はどんどん大きくなり、臆病な大人は日に日に萎んでいく。

待ってましたとばかり、終演後は自分の頭ばかりに集中する。とりとめのない想念が無数の一反もめんとなって飛び交い、目まぐるしく、暑さと青空にCoccoの歌詞が混ざって目眩がする。雲があまりに大きく膨らみ、可部の方は鮮明な山の稜線が心を奪ってくる。

フランクのヴァイオリン・ソナタを流して、相生橋を原爆ドームを右に慣性に任せて風を切っていくと、目の前にものすごい白い雲がそびえている。舞台上で気楽に踊る人はいない。みんながみんな費やしている。考え事は秋の海辺のトンボのように入り乱れて、一体自分が何なのかまったくわからなくなる。