9月4日(水) 広島市中区基町にある広島市映像文化ライブラリーで渋谷実監督の「本日休診」を観る。

広島市中区基町にある広島市映像文化ライブラリーで渋谷実監督の「本日休診」を観る。


1952年(昭和27年) 松竹(大船) 97分 白黒 35mm


監督:渋谷実

原作:井伏鱒二

脚本:斎藤良輔

撮影:長岡博之

音楽:吉沢博、奥村一

出演:柳永二郎、淡島千景、鶴田浩二、三國連太郎、佐田啓二、岸恵子、田村秋子、中村伸郎、角梨枝子


仕事が終わったら、牛丼を食べて、映画へ行こうと思っていたのに、眼鏡を忘れたことに気づいた。最前列の席に座ろうかと思ったけれど、やっぱりぼやけるので、家へ取りに帰ることにする。そうなると牛丼を食べる時間がないので、コンビニで済ませるか、はたまた食べずに行くか、とりあえずに家に戻った。


眼鏡をかけて道に戻ると、魚屋の近くのコンビニが目に入り、夕方になると寿司が並ぶのを思い出した。手巻きを買い、相生橋たもとの川岸に降りて、一口ずつ食べてから映画館へ向かった。


緊張などなく、呆けて映画を観ていた。川島雄三監督の「幕末太陽傳」を思い出す古いフィルムの映像に、生き生きした町民がいて、「貸間あり」でフランキー堺さんと一緒にいる姿が素敵だった淡島千景さんが、変わらぬ鼻立ちで登場していた。「ビルマの竪琴」と同じ軍人だが、声は上っ調子で、精悍な顔つきが逆に笑いを起こさせる三國連太郎さんもいる。柳永二郎さん、鶴田浩二さん、岸恵子さん、佐田啓二さんと、一人一人が千住あたりの下町情緒をかたどった魅力ある庶民となっていた。


食べた寿司のパックを鞄につめていて、チャックを開けっ放しにしていたから、上映中は醤油臭かった。それに加えて、奥歯あたりに潜んでいたとびこが時折出てきて、小さい粒を噛むと味が出てしまい、腹が減って、蕎麦を食べるシーンで、あれを食べたいと思ってしまった。


原作の井伏鱒二は「山椒魚」しか読んでいないので、それほど印象に残らず、どうしてああも有名な作品なのかと不思議だった。さらにわからなかったのは、どうして太宰治は井伏鱒二に師事したのだろうか。


けれど、この映画を観てなんだかうなずけた。劇中のナレーションは小説の地の文だろうか、それに登場する人物もその通りだろうか。言い表せない妙があって、たまらなく良かった。


上映後は心が軽かった。仮に、疲れがあり、ストレスもあり、本人は自覚していなくても、マッサージを受けたり、温泉に浸かったあとに、体が軽くなったことで気づくこともあるだろう。そんなかんじだ。


すっきりしたので、家に帰りたくなくなり、蒸し暑い夜を浴びに平和記念公園へ向かい、シュークリームを2つとトリスの小瓶を買って、ベンチに座る。映画は良いな、そして役者も良いなと、飛んでいく雁に勢ぞろいした面々に、ほろりと布団で顔をほころばせる淡島さんの顔を思い出して、なんて役者揃いの作品だと思った。


トランペットで誰かが「サマータイム」を吹いている。吉田拓郎さんの「夏休み」が数日前にラジオで流れていた。今の自分にそんな憂愁はなく、映画は良いなと、しみじみするばかりだ。

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