8月14日(水) 常滑市のやきもの散歩道Aコースを歩く。

常滑市のやきもの散歩道Aコースを歩く。


地図で見ると瀬戸から常滑は結構離れているが、電車を乗り継ぐと、予定していた時間よりも早く着いてしまう。特に名古屋から常滑の電車が、町田から新宿に行くような早さで電車は進行していた。


常滑に着く前から激しく雨が降り、台風の影響を感じる。酒と寝不足に合わせて、観光三日目という、日常から離れるという新鮮さを失い、観光が日常化する入り口のような日が、義務という足取りとなって勢いを損なわせる。


観光案内所で一通り尋ねてから、バス停の椅子に座って内容を把握する。風は強いが、雨は止んできたから歩けるだろう。方角もわからずに歩き出し、観光ルートへの道を見つけて進む。


やる気がでない、むしろ眠りたい。そう思いつつ、とこなめ招き猫通りを歩き、様々な意匠の猫を斜面に見ていると、萩で出会ったスペイン人芸術家の作品が招いている。奔放で戯画化された色使いによる赤い十字を持つ招き猫から強い感傷が引き出されるのではなく、やはり居るのだと、冷静な気持ちにさせられる。それは目的とした物を前にするために移動してきて、それを見つけて浮き足立つのではなく、しんみりとした気持ちにされるのに近い。


散歩道のAコーススタート地点にたどり着き、坂の細い道を歩いて観光が始まる。すぐに目に飛び込んでくるのは、土管の連続だ。瀬戸でも見かけた窯に関する物が、やきものの町だと伝える。


それからは、この旅行で初めて観光地としてできあがった、いわば観光の為の作品として散歩道を楽しんだ。細い道は起伏に富み、一度道を外れてしまったが、看板によりルートは間違えることなく進める。土管、壺、築窯用炉材などで坂道や垣は築きあげられていて、珍しい景観を作っている。トタン板も混じる古い家屋があり、煙突と古い窯が今ではない時代を感じさせる。


台風の影響でとにかく風が強く、空の移り変わりも早く、雨は朝の他に降らなかったので、強い日射しと、雲による陰の代わり変わりだった。風は植物を揺らして音を鳴らし、蝉は気象に関係なく一定して鳴き続けて、暑いが風が気持ちよく、店は扉と窓をぎしぎしと鳴らし、陶製の風鈴は一大事を告げる鐘のように激しく鳴り続ける。夏らしい静けさはあるも、音に溢れた風情ある条件がとにかく良かった。


地元の人の話を聞けば、昔は窯元がたくさんあり、大物を焼いていたが、時代と共に減った。煙突はそこらで黒煙を吹き続け、東海道線の汽車に乗って東京へ向かえば、トンネルで黒煙が充満して、まるで常滑のようだと思ったらしい。そのたくさんの煙突も、伊勢湾台風により、多くが崩れてしまった。そんな話を地元の人はこぼし、そこら中にある土管も、機械だと肌合いはつるっとしているが、手で形成しているのは表面がざらざらしていて、たしかに一つ一つに個性がある。白く細長い樋のようなセラミックは、戦時中に劇薬を運ぶために作られて、吊されたまま焼成されたらしい。


洒落た品物をそろえる店ではなく、雑とも思えるほど器をただ置いてある店の人は、商品を売る知識ではなく、土地の歴史を語ってくれる。それでも、今の人に向けたキャッチーとも思える要素も必要で、それがあるからこそ今と昔の差異を感じて、時代をみることができる。


瀬戸に比べると、この町は器用に時代についている。1985年からとこなめ国際やきものホームステイを行い、27年間で海外から42カ国383名を招いている。それが刺激を与えていることは、外国人作家の作品を町中で見ることに感じる。自分の会った人はその1人だろう。小売りはやりません、ではなく、若いオーナーさんの店もあり、店まわりの楽しさがここにはある。瀬戸はそれが乏しかった。観光ルートの前半に団子茶屋があり、後半に食事どころとカフェが集中しているのも、考えられた配置だろう。


水曜日とお盆で入れなかった店や施設はあったものの、店まわりは十分にできたので、約1時間ぐらいとどこから聞いたか定かでない、勝手に自分で作り上げたのかもしれない予定時間を大幅に越えて、コースを歩き終える頃には、食事も含めて4時間半も経っていた。


瀬戸と常滑という六古釜でも、今は異なった町の歩みがあるのだと感じられた。資料や作品から目にした少なくないカタカナの作家の存在に、萩で会ったスペイン人作家は大勢いて、おそらく、この地に初めて来た時にも、温かく迎えられたのだろうと、煙突の立つ、いくつもの坂の視点から窺うことができた。

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