8月10日(土) 呉市中央にあるくれ絆ホールで「呉文連70周年記念 呉市春の文化祭 柳家花緑・古今亭菊志んWithジャンボ衣笠」を観る。

呉市中央にあるくれ絆ホールで「呉文連70周年記念 呉市春の文化祭 柳家花緑・古今亭菊志んWithジャンボ衣笠」を観る。


演目

動物園:ジャンボ 衣笠

つる:柳家 花緑

牛ほめ:古今亭 菊志ん

コント:土岐の城

湯屋番:古今亭 菊志ん

八五郎出世:柳家 花緑


前に呉に来たのは二年前だろうか、夏の、ひどく暑い日で、広島市内から自転車で、マーラーの交響曲を聴きながら、ベイサイドビーチ坂あたりで第6番の熱と共に海を眺めたのを思い出す。呉に着いたら、観光する気が起こらず、ただ日陰の椅子に座って休んだ。「この世界の片隅に」が上映される前だった。


ジャンボ衣笠さんの「動物園」は、この演目を最初観た時はサゲが面白くて楽しく聴けたが、桂雀々さんで観た時には、虎の皮を着る動作や他の仕草はうまく表れているものの、なんだか落ち着きがなく、今日のジャンボ衣笠さんでも、やはり気ぐるみ着る所作は実際に感じられるほどで、虎の鳴き声も愛嬌があっていいのだが、どうも肌に合わなかった。断続的な間と運びにそそっかしさを感じてしまう。


花緑さんの「つる」は、今の人らしい言葉で、やりとりもそれらしい。早口で、リアクションが大きく、古風な隠居さんがいるのではなく、昔の垢を落としてこざっぱりとした人らしく、テレビで観る芸人のような感度の良い、賢さで反応するような、神経の鋭さを感じた。


菊志んさんの「牛ほめ」は、以前に観た「真田小僧」を思い出すような、少し頭の弱い与太郎の描き出しが良い。語り口が柔らかく、与太郎のとぼけた口調の次の、父親、もしくはおじさんの言葉の入れ方がとても落ち着いて面白く、実に表情が豊かた。ただの馬鹿だけでなく、馬鹿さが合わせ持つ賢さが、鈍いふてぶてしさでぐさっと出る。


仲入り後は、ジャンボ衣笠さんとバズーカーしげぞうさんによるコント土岐の城があり、入りからジャンボさんのマイクは音を拾わず、それが解消されるまでに、花緑さんが舞台に登場してつないだり、菊志んさんが舞台後方を走り過ぎたりと、間を埋めるためにそれぞれの個性が組み合わさり、台本のないアドリブはそれはそれで見応えがあった。特にジャンボ衣笠さんは、さすがの対応であり、おかげでその後は、コントそもそもが面白かったのに加えて、ハプニングが観客の距離を縮める結果になり、何だか一体感のある舞台になった。ジャンボ衣笠さんの存在の大きさをとても感じられた。


それから、菊志んさんの「湯屋番」は、この方は子供や女性を演じるのがねっとりとして上手で、番台にのぼった男の空想が気味の悪いほどに燃えあがり、その一人舞台を眺める男湯の男達との差がはっきりと分かれていて、番台と脱衣場の情景がありありと浮かんだ。ここでも、一人陶酔する表情と、素っ頓狂な者を現実に見る表情の差が面白かった。


そして花緑さんの「八五郎出世」は、前半に思ったとおり、最近の若者らしさを取り入れた描き方で、少し前ではジャンボさんで観て、それから誰かで観たか、それらと比べてずいぶん異なっていた。演目によって細かい描写がこうも違うのかと、最初は江戸の人間らしい雰囲気を残さない軽薄に思える人物に拒否感を覚えたが、屋敷に着いたあたりから、なかなか味のある人物と思えてきて、どんどん引き込まれていった。やはりうまい人だと、その表情と間に、現代人らしい台詞と反応も一つの芸として観ることができて、酔っぱらったあとの口上には、やや扇情的な点もあるが、ついつい涙腺を刺激される演技力があった。


観客は皆良く笑い、自分の前の列の斜めの女性など、菊志んさんに箍が外されて、おかしいくらいに笑いっぱなしだった。かけ声も多く飛び交い、広いホールではあるが、観客と噺家さんの距離感は円形でまとまっているようだった。


はるばるという程ではなく、運賃と時間は柴又から新宿へ行くほどだが、遠出に感じるほど広島市内を出ずに生活しているのだろう。それに、呉までの車窓の景色が比較にならない。都会の電車から見る慣れた味気なさではなく、瀬戸内の海を窓から見て、広島に引っ越すことが決まって何を一番の楽しみにしていたかを思い出した。自然が良いのだ。小田急線には旅情を感じる景色が、小田原に向かう途中の厚木の山や、四十八瀬川の並走くらいだ。自然の大きさがまるで異なる。


呉の商店街でベンチに座り、大判焼きを食べて、コーヒーを飲んでいたら、目の前に理髪店があり、今日の夜に側頭部と後頭部を自分で刈ろうと思っていので、つい入ってしまった。


腕と口の良い人で、高校野球や、広島での不思議なお客さんの話がとても興味深かった。10年以上使っているというオートシャンプーは初めての体験で、頭皮に水が全体として刺さり、ヒヤッとした感じに、子供心を思い出された。


さっぱりして外に出て、落語とは違う美容師さんの話のうまさを振り返り、落語は庶民あっての落語だと、観光気分の呉がとても好ましかった。


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