8月9日(金) 広島市中区加古町にあるJMSアステールプラザオーケストラ等練習場で「アンサンブル・プレギエラ 第6回・広島公演 ~原田禎夫氏をお迎えして イタリアの洒脱、ドイツの幽玄~」を聴く。

広島市中区加古町にあるJMSアステールプラザオーケストラ等練習場で「アンサンブル・プレギエラ 第6回・広島公演 ~原田禎夫氏をお迎えして イタリアの洒脱、ドイツの幽玄~」を聴く。


ヴァイオリン:佐久間聡一、甲斐摩耶

ヴィオラ:守山ひかる、棚橋恭子

チェロ:原田禎夫、熊澤雅紀


ボッケリーニ:弦楽五重奏曲 ハ長調 G.349

ブラームス:弦楽六重奏曲 第2番 ト長調


滅多に飲み歩くことがないからか、その日の代休を理由にして、前日にクラシック音楽の好きな人と話しをしていたら、西条の酒祭りでの一人飲みによる二日酔い以来の胃腸の機能不全を味わった。まるで食中毒だ。昼まで食べ物を受け付けず、外に出るばかりだ。昨夜にカチューシャを歌うのを店内で聴きながら、ヴォルガの舟歌も聴きたい、なんて思っていたのを思い出すほどに、体を重く引きずる羽目になった。


そんなせいか、夜のこのコンサートを迎える自分の状態は、茫漠としていた。開演15分前に来たら、1階席の前列はほとんど埋まっており、最後列に座ることになった。いつもなら空いていることが多いのに、やはり有名な東京カルテットの原田さんの演奏だからか。


今日は動かない。いつもなら空き時間にごそごそ動いて、文章を書いたり読んだりするが、下手な彫像のように固まってしまう。そのくせに、演奏前や、休憩の時間がやたら長く感じた。


原田さんが登場したのを見て、数日前の広響の演奏会でチェロのマーティンさんがおらず、年輩の男性がいたのを思い出し、はめ込まれたパネルとして、この人だったことに気づく。


ボッケリーニは、うつらうつらに聴いていた。確かに聴いているのだが、感想が浮かんでこない。演奏者は遠く、ヴァイオリンは見えるが、チェロは熊澤さんの上半身だけで、原田さんは姿が見えず、ヴィオラの棚橋さんも少しだけ。この緊張感のなさと、初めてのこの座席の位置のせいだろうか、いつもなら、各楽器の音色の持つニュアンスが少しはわかるのに、響いてこない。それは視覚の影響も大きいのだろう。音楽は聴くものだが、演奏会は観る楽しさがある。演奏者の動きが音をより確実な証拠を与えるので、原田さんのチェロの響きを探すも、熊澤さんの動きと音に向かってしまい、時折響く低音だけが見えるようだった。


もったいないな。席も、状態も。そう思って後半のブラームスを聴くと、ヴァイオリンとチェロの位置がそれぞれ互いに替わり、ボッケリーニでは芯のある音色を響かせていた甲斐さんの替わりに、佐久間さんの響きが第一となり、今度は見えるようになった原田さんのチェロが目立って聴こえる。なんて重厚感のある、渋い音なのだろう。数日前のイッサーリスさんは細い響きだが、原田さんは誰かの言葉を借りれば、演歌のこぶしを持ったロストロポーヴィッチに近い位置にあり、木材の色なら明るい檜よりも黒檀のようだ。各楽章でも太いニュアンスのパッセージはあるが、特にアンコールで二度奏された第3楽章が印象に残った。


あまりわかっていない状態ながらも、各人による親和力の高い演奏の良さは響いてきて、ブラームス特有の優しく悲しい弦の美しい構成の素晴らしさは実感された。何度か音源で聴いていながら、第1番のほうがわかりやすい印象があるものの、ピアノ協奏曲のような関係だろうかと思った。規模の大きさと完成度は、改めて第1番を聴かないとわからないが、この第2番のほうが高いのではないかと思わせられた。


やはりもったいなかった、と思いつつ、こんな状態でも強い影響を与えてくれた演奏会は、実に良かった。そして、熊澤さんの慎み深く、思慮のある語りと、プログラム解説の言葉選びの良さは、今回も同様だった。

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