5月4日(土) 松山市道後湯之町にある「道後温泉椿の湯」に入る。

松山市道後湯之町にある「道後温泉椿の湯」に入る。


前日に押入れの中の布団やら何やらを含めて大掃除したせいか、それともダニにでも刺されたのか、朝から両腕にチクチクしたかゆみがうずき、それが日中止むことなく、帰りのバスの中でそのうずきは頂点に達した。金たわしを解いて一本に取り出し、それらで両腕と両足を頻繁に突かれるように、痛みにより近いかゆみが止まらず、大げさに言えば発狂しそうなぐらいだった。


夕飯を食べてから、風呂に入るか、それとも逆にするか、どこで入るか、松山市駅近くに銭湯はあるか、色々と考えながらバスの時間を耐えて、大街道(最初は、だいかいどう、と読んでいた)近くの高架電車駅のそばに停車した時に、松山市駅まで乗っていようと思っていたが我慢できずに降りる。そのまま市内電車に乗り換えて、道後温泉へ向かう。頭ではなく、体が反応した形だ。かゆみという耐え難い反応による導きだ。


道後温泉駅へ着き、何の感慨も湧かず、脇目も振らずにアーケード通りの方へ向かい、目についた観光案内所に入る。そこで、手っ取り早く入れる湯を尋ねる。どんな形でもいい、必ず入れる場所ならば。アジア人の係の人は、椿の湯を教えてくれる。すぐに出る。1分もかからずに。


アーケード通りはひどい人数だ。さすが連休中だけあって、砥部町とは対象的な混み具合で、言葉は悪いが、こういう急ぐ時の人間からしたら、ちんたら、のろのろ、と歩く人ばかりで、原動機付自転車に乗って渋滞の道で車の横をすり抜けていくような荒っぽいやりかたで隙間を抜いて進む。時折ぶつかり、ふと、以前西条の酒まつりで、人が多くて前へ進めない状況に後ろから思いきりぶつかってきた人がいて、まったく無神経な人だと、無理に突き進んでいくその人を見て、知り合いだったのを思い出し、人間は切羽詰まった状況に陥ると無作法もいたしかたないのだと、みょうな理解だと考えながら、椿の湯へ着く。


券売機に並ぶが、そうは待たない。風呂の用意はリュックの中。ここでも、風呂上がりに自動販売機の前でぼんやり財布をとる男に思いきりぶつかって除けて、右手をあげて謝り、すぐに男湯へ行く。


ここも外の様子と同じく、混み合っている。裸の男達が、老若うろうろしている。空いているロッカーを探すのも手間がかかる。


見つけて、脱ぎ、すぐに浴室へ行く。ここもやはり混み合っていて、洗い場が埋まっている。だが、ここまでくればもう少しだ。急ぐ必要はない。素っ裸で突っ立って待つ。タオルは持ち歩かないので、入り口近くの棚に置いて、手ぶらで待つ。


あとは自分の形式で銭湯の手順を踏むだけだ。体を流し、浴槽に浸かる。湯の質がどうのこうのではなく、人々に浸かるようなていだ。浴槽の縁は人が張り付いているので、隙間から湯に入り、中央近くで陣をとる。距離が近い。気持ちがいい。


こうも人が多いと、ついつい他人の体をじろじろ観察してしまう。最近はめっきり行かなくなったが、わりと近所にある土橋温泉という銭湯に行っても、多くて十人程度で、これほどバラエティに富んだ男達の体を見比べることはない。


まず目につくのが、老人の尻の小ささだ。どうして男は歳を重ねるとけつが萎んでいくのか。まるで渋柿みたいに縮こまって、見るからに情けない。筋肉の削げて起伏の少ない腕や、まるで芋虫のようにのっぺりした胴体に比べて、尻はやたらかしこまっていて、まるで仏が潜んでいるかのような控えめなたたずまいだ。それに比べて、背中は衰えない。どんな老人も、背中はやたら大きくて、ここは歳を経て根っこのように膨らむばかりだ。


老人に比べると、若者はやはり青い。タオルを唯一の友のように依存して持ち、男性器を気にしている者がいる。こんなのは、鼻や耳がそれぞれ異なっているように、違っていて当然で、ちっぽけなできの悪いそら豆のさやがぶらさがったように、どれも力なく下がっている。力があっても目立って困るが。また、ネックレスをしたまま裸になったりと、体つきと肌は立派だが、重みと安定感がない。仮にあっても、爺臭くて困るが。


あまりのんびりせずに、さっさと風呂場を出る。着替えるのにも、場所取りに一苦労だ。


外に出ると、かゆみはおさまっている。湯治という言葉があるとおり、てきめんに皮膚に効く。


このまま治るかと思ったが、二時間後くらいからかゆみは始まる。それでも、温泉の効果を知り、広島に戻ったら、銭湯通いをまた始めようかと考える。そうすれば、皮膚は強くなるだろうか。こんな考えは、思うだけで実際に動かないと知っているけれど。

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