4月30日(火) 広島市中区十日市町にあるインドカレー屋「サパナ」で日替わりランチを食べる。

広島市中区十日市町にあるインドカレー屋「サパナ」で日替わりランチを食べる。


三連休後の出勤となり、出荷業務が停止してほぼやることのない午前中に、ラジオでは元号についての話題が繰り返し話されていた。職場に来るまでは、改元についてほとんど気にせずにいたから、それほど話題に取りあげられているのを聞いていて、テレビをつけずに、趣味の範囲で生活していると、いかに情報は偏り、また偏った情報は自分の知らぬところで勝手に進んでいるのだと知る。気づけばDNAが10連敗していたらしく、数年前までは勝ち負けに一喜一憂して(一憂のほうがはるかに多かったが)、時と頭を浪費していたが、今はなんだか蚊帳の外にあるから、意外にも何とも思わないのを知るのに似ていた。


リスナーからの便りで、年越し蕎麦ではなく、元号越し蕎麦なるものを食べているというのがあり、うまくもなんともないと思っていると、ふと食べたくなり、今日は昼に退勤するから、「香月」の蕎麦を食べて帰ろうと思った。


足早に職場を出て、「香月」を覗くと、立って待っている人が店内にたくさんいる。自分と同じようにラジオを聞いたからか、それとも本人が思いついて越し蕎麦を食べようと思ったのか、それとも連休だからか、ここの蕎麦はおいしいから。


待って食べるほどではないから、過ぎて、近くのインドカレー屋に入った。改元カレーなどと考えてしまったが、無意味にもほどがある。テーブルに着くと、斜向かいに本社勤務の上司がいる。


日替わりランチを注文して、会話をすると、つい前々から燻っていたことが口から出ていった。この連休中の業務に関することだ。あまり意味をなさず、また日本の職場環境らしい頑迷とも思えるお客様第一主義についてだ。レストランに行き、ホールスタッフに食事は注文できて、厨房で料理を作ってもらえるものの、運ぶ人がいない、そんな状況が自分には解せない。自分が客ならこう言うだろう「食べられない? だったら店を閉めてくれよ」と。


雇う側と、雇われる側の関係は、主と召使いのようなもので、表面は静かだが腹には一物を抱えている場合が多く、理想的な姿として、仲良くいるなんてことは、余程うまくいかない限りないだろう。使うと使わる、自分の人生の目的の為ではなく、生活の為にかけがえのない時間と体を費やしているのだから、無駄になんて使われたくない。使うのなら、意味のあるように使ってくれという、一方的な意見がある。


そんな気持ちを率直に述べられる良い機会だから、ランチを食べながら会話を続けた。カレーはひき肉が入っていたような……、6の辛さにしたが、どれくらいの辛さで、どんな味だったかほとんど身に入らず、あんなに美味しく食べておかわりするナンも、分厚いだけのものとして、ただ口に入れられる始末で、頭と口に意識は集中していた。なんておいしくない食事だろう。普段交流のない会社の上司に、食ってかかるような意気で向かい、思っていたことをはばからずに言うのは気持ちよく、すっきりするが、まあ食事はなんと味気ないのだろう。それでも、熱くなり、相手の口のタイミングを見計らって、こちらの口を開くことに神経は向かい、不穏な空気が漂うも、店を出る時に互いがすっきりすれば、とても有意義な交流となるだろう。


配送料の値上げに配送条件は厳しくなり、材料の原価は上がりお客さんの要望は厳しくなり、働いている社員の高齢化に若い労働者の減少による待遇の変化もあり、健康に関する業界の大手参入もあって、自分の働いている会社を取り巻く環境は厳しく、それを舵取る人も並々ならぬ苦労があるだろう。それに入社して年数も少ない平社員が、生意気に意見を言ってくるのだから、気は休まらないだろうか。そんな上司の置かれている状況もわかるが、せっかくの特別な連休で、意味のある仕事もできないのだから、休みたいという真っ当な意見を口にせずに、へつら笑いとお愛想などとてもできない。


それに、インドを旅行して知っているから。あの国に行けば、人と人がぶつかり合い、口論し合うのが平常だから。そして、からっと忘れて、平常に戻るのもまた平常なのだ。インドカレーを食べておいて(作っているのは穏やかなネパール人だが)、黙ってなんかいられやしない。

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