4月30日(火) 広島市中区基町にある広島市映像文化ライブラリーでイエジー・スコリモフスキ監督の「ムーンライティング」を観る。

広島市中区基町にある広島市映像文化ライブラリーでイエジー・スコリモフスキ監督の「ムーンライティング」を観る。


1982年 イギリス 97分 日本語字幕 デジタル・リマスター版


監督:イエジー・スコリモフスキ

出演:ジェレミー・アイアンズ、ユージン・リピンスキ、イジー・スタニスラフ、エウゲニウシュ・ハチュキェビチ


不覚をとった。せっかく午後の代休をとって来たのに、前半20分くらいはうつらうつら眠っていた。猛烈な眠気により感受性は削がれ、沈みこむ時間を超えてからも、構図やカメラワークを気にすることができず、ぼんやりと観ていた。これはこれでうるさくなく、良いのかもしれないが、勿体無い気がして仕方がなかった。


為替の効果を使い、イギリスの別荘を改修するのに現地の業者に頼むのではなく、わざわざ依頼人が住むポーランドの業者を派遣して経費を浮かせる物語で、昨日観た「ザ・シャウト」のような作風ではなく、時代背景に根ざした作品だ。第二次世界大戦のポーランドの歴史は少しだけ知っているが、社会主義時代の経済状況や、イデオロギーの異なる政治組織の対立、今も多くの国で問題となっている不法労働などの要因が生み出した社会状況における個人が、閉塞感と、好転の兆しの見えない状況で、詳細には描かれない自国での立場なども絡めて、苦闘する姿が描かれている。


主人公は、工事の進捗状況に追われ、資金は計画以上に減っていき、突然の戒厳令により連絡の途絶えた自国の妻と依頼人が気になるも、自尊心へのこだわりが仲間への一方的な振る舞いと向かわせているようだ。それは、何をアレゴリーにしているかわからないが、納期の厳守と、仕事の完了は、妻への関係を取り戻すための手がかりではないかと、まったく平凡な予想を立ててしまう。そんな話は台詞で語られないのに。


生きるために盗み、その技を広げて、大胆になっていく主人公は向かうところがない。後がないことを知っていながら、目の前の事に必死としがみついているようだ。だから、肝心なところを主人公は気づけていない。クライマックスでの、遠いショットの奥の人物のやりとりと、手前にショッピングカートが転がり、響く音は、刃物のように突き刺さる。


この映画は、暗い社会主義時代の雲がそのままのしかかったような、非常に深刻な作品だ。

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