4月14日(日) 広島市中区加古町にある広島文化学園HBGホールで「広島交響楽団第389回定期演奏会」を聴く。

広島市中区加古町にある広島文化学園HBGホールで「広島交響楽団第389回定期演奏会」を聴く。


広島交響楽団

指揮:レオポルト・ハーガー

ヴァイオリン:神尾真由子

コンサートマスター:佐久間聡一


ベートーヴェン:ヴァイオリン協奏曲ニ長調

ブラームス:交響曲第2番ニ長調


広島交響楽団の2019年シーズンが今日の演奏会から始まる。今までは2階の後方の座席を取っていたが、今期から1階の前から5列目の座席へと移り、今までとは違った音の響きを味わえることが楽しみだった。2階は均等に音が聴き取れて、各パートの位置もわかりやすいのだが、あまりに後ろだと音が小さく、演奏者と指揮者が遠く小粒となり、臨場感が薄れてしまう。


コンサートが始まってみると、舞台をやや見上げるかたちとなり、管楽器のあたりは見えないが、第一ヴァイオリンは近く、指揮者の動きも立体的にとらえることができる。音は、より鮮明に伝わってくる。演奏前の音合わせでさえ、今までよりもはっきり聴こえる。ふと、昨年の夏にゲルギエフ指揮のマーラーの交響曲第7番を聴いた時、これほどに音の効果は盛り込まれているのかと衝撃を受けたが、その時は1階の前列で、今の座席と似た位置だったのを思い出した。ベートーヴェンのヴァイオリン協奏曲が始まり、今期はこの席で音楽を聴くことができる、その幸せが最も思い出深い曲の、冒頭の木管楽器のいつもより鮮やかな音と一緒に募ってくる。


レオポルト・ハーガーさんは下野さんの先生ということで、ウィーンらしい音を鳴らしているように聴こえる。これは素人による思い込みでしかない。その証拠を見つけるように、間延びしない、きびきびしたアクセントの弦の響きと音の切り方に、端正なゲルマン人らしい発音だとあてをつける。テンポは早くなく、管楽器の目立つところでは、じっくり歩を進めるようにゆっくりで、これは下野さんよりも、むしろ秋山さんのようなテンポと各パートの響かせ方に似ているように思えた。それを成熟という年齢のせいにするのか、古風とするのか、そんなことはわからないが、秋の京都に仮住まいしている時に、孤独と無聊、それに先行きの期待と都合の悪いことは見ようとしない不安を抱えながら、何度も何度も聴いて、赤い紅葉に音調を仮託して、しみじみと、冷たく、切なく、物悲しく迫ってばかりいたこの曲が、牧歌的に聴こえるほど落ち着いた調子で響いていた。神尾真由子さんは卓越した技術に、誠実な演奏で、レオポルト・ハーガーさんの第一に意図を汲み取っているようだった。ただ、第1楽章のカデンツァでは、レオポルト・ハーガーさんがじっと神尾真由子さんを見つめ続け、まるで生徒を見守るようでいながら、いったいどんな音楽を聴かせてくれるのかと、音楽への愛に従って生きてきた年輪の刻まれた人物の、純な好奇心が表れているようで、ああ、指揮者の横顔と表情が見れるこの座席で、本当に良かったとつくづく感じた。


頻繁に演奏される曲でも、「ああぁ、またこれか」思うのと、「おおぉ、またこれか」と思うのがあり、ベートヴェンの交響曲第7番やチャイコフスキーの交響曲第5番となると悪くはないのだが、それほど楽しみにしていない自分がいて、ブラームスの交響曲となると、第1番から第4番までどれが演奏されるにしても、必ずその日を楽しみに待つ期待がいる。シューマンのピアノ協奏曲のように、素直に親しめるので、劇的というよりも、素朴な人間感情の美しさに触れるように、飽きるということがないらしい。


協奏曲よりも厚い音量で始まり、追憶を伴ってブラームスの姿を描く。オーストリアのペルチャッハで作曲されたというので、その景色を勝手に音に見てとり、第1楽章で弦の響きを碧く輝くヴェルター湖に、管楽器の音色を緑の濃い山林のあちらこちらからの囀りに、散歩姿の光景が描き出される。


1階席だからか、いつもより弦の響きは雑なく存在を増し、木管楽器の音色はより心に響くようで、特にフルートが印象に残った。


後半の指揮で、レオポルト・ハーガーさんが上野さんの先生ということがうなずける。穏やかだが細やかなテンポで、木管楽器はより純な森の音色で、チューバは舞台後方から豪壮に響かせていた。


席替えしたからか……、それでも、ついこのあいだブラームスの交響曲を聴き、2階席で感涙するほどだったのを思い出した。オーストリア出身の指揮者によるブラームスで、老齢なんて思い起こさせない大きな演奏で、今日も本当にすばらしい演奏会だと鳴り止まない拍手の中で納得してしまった。


広響に慣れ親しんだからか、それとも自分の耳と感性が知りえるようになったからだろうか、年々演奏会での満足は深まっていくようだ。


今期も、素晴らしい演奏会がたくさんあるのだろう。広響が近くにある環境を、ひしひしと感じる。

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