10月27日(土) 萩の「ふみ」で金太郎を食べる。

萩の「ふみ」で金太郎を食べる。


宿の女性にこの店を教えてもらった。店に入ると、知らない土地の、慣れていない小料理屋の雰囲気にたじたじした。仕事帰りに繁華街で飲みに行くような人であれば、店での振る舞いもわかるのだろうが、誰かと飲みに行くことがほとんどなく、フランチャイズのような入りやすい居酒屋ならともかく、スナックやカウンターだけの小さい小料理屋はほとんど知らないから、値段の書かれていないメニュー表に驚いてしまった。


すぐに、旅行者かと聞かれ、話が始まる。女将さんが闊達な人だと聞いたとおり、距離の縮め方に慣れていて、包容力を持った人だった。


萩は魚が美味しいから、萩らしいのを食べたいと伝えると、金太郎を紹介される。赤みがかった体色の、手の平におさまるくらいの大きさだ。


話の流れで、唐揚げと塩焼きの食べ比べになった。お酒は「長門峡」の常温で。白い身は小骨が多くも味がしっかりある。女将さんいわく、少しくせがあるというとおり、塩焼きで食べると柔らかくも力強い味のあとに、雑味というか、少し舌に残る味があった。臭みではなく、身に染み込んだ野趣というものだろうか。


そのかわり唐揚げとなると、白身より味が膨らみ、くせも姿を消していた。ぱりっと、とても美味しい。


隣にいた地元の年配の男性は、唐揚げよりも塩焼きが好きだと言っていて、女将さんも、若い人は揚げ物のほうが好みかもしれないと言っていた。たしかに唐揚げのほうがわかりやすい味で食べやすい。塩焼きは味わいが素朴であり、風味が広いので、塩焼きを好む理由もなんとなくわかる気がする。


せっかくなので唐揚げは頭も食べた。鶏の手羽も、スペアリブも、骨にこびりついた肉をすべて食べずには気がすまない性格だから、魚の揚げ物も、全部食べられるかと手を出してしまう。頭は旨味がつまっていて美味しいのだが、後味がとても舌に残る。それでも食べてしまうのは、苦味もたっぷりな複雑な味がたまらないからだ。


お礼を言って店を出る。率直で上品な人柄の女将さんだった。ちょっとくせある存在感の金太郎もおいしかった。

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