10月9日(火) 広島市中区加古町にあるJMSアステールプラザ大ホールでこまつ座の「マンザナ、わが町」を観た。

JMSアステールプラザ大ホールで、こまつ座の「マンザナ、わが町」を観た。


作:井上ひさし

演出:鵜山仁

出演:土井裕子、熊谷真実、伊勢佳世、北川理恵、吉沢梨絵


市民劇場の10月例会を観に行った。前回の例会は7月だったので、約三ヶ月ぶりだ。長く感じた。


前回の例会は後ろのほうの座席で、役者さんの表情がよく見えず、台詞も遠く聞こえて眠気を覚える時間があったが、今回は前から5列目のほぼ中央とあり、一切眠気は覚えなかった。やはり舞台から近いと、感じられる量が違う。


5人の女優さん全員が素敵で、表情は豊かに、声の質も異なり、個性がはっきりと分かれていた。


ミュージカルのような歌と踊りもあり、コミカルに舞台は進む。深刻な暗さはなく、沈鬱で、破滅的な要素もない。生き生きした女性特有のいつまでも少女らしい可愛らしさと、純粋さ、それに強さとしたたかさで、他の収容所へ移されることになった同室の女性を他の皆で助ける。その姿がとても微笑ましい。


男はこうもいかない。暑苦しい友情や、冷めた手助けもあるが、華やかさはない。女子バレーボールやチアリーディング、シンクロナイズド・スイミングのように、手をつなぎ、軽々としたジャンプで喜ぶ姿は男にはない。肩を組み、汗を散らして激しく抱き合うのが男だろう。


今年から市民劇場に入会して観るようになったが、広島の小劇場では決して観られない質だと今さら思い知った。能楽について何かしらの文章を読んだときに、一流の能楽師は個人の魂さえ消して役になりきる程研ぎ澄まされ、毎度同じ演技の水準を保ち、安定しているとあり、今回の劇は、それぞれが完全に磨き上げられた動きと台詞によって作られていて、登場人物は生き生きとしているが、それは役者個人の性格とは全く違った存在が動き回っていると感じられた。広島県民文化センターで観る神楽や、他の劇では、どうしても役者自身が色濃く残っていて、それが見どころとも言えるが、やや不安定で、それは芸能といえるほどではないかもしれない。


息づかいが異なり、たった3秒の中の動きにさえ、注意深い表現の移ろいが表されている。台詞もなく見守るような役の場面でも、表情や仕草にはすべて意味があり、それが優れて表れている。広島の小さい劇では、その3秒が止まっている場合がある。演技はしているのだろうが、情報量がまるで違う。そこに間があり、演技が乏しいと間抜けという言葉が当て嵌められてしまう。


さすがだと思った。声量、声音、洗練された仕草、劇はあくまで桁違いの稽古の積み重ねによる演技であることを実感した。こういう完成された劇ばかり観たいと思ったが、広島ではそうもいかない。二ヶ月に一度だけ、市民劇場によって観られるのみだ。


こんな時、自分の実家の立地の良さを思い出してしまう。前回の例会でも思ったはずだ。


様々な劇団の地方公演を探して、足を運ぶしかないか。

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