9月28日(金) 広島市中区西白島にあるフランス料理屋「MILLE」でディナーをいただいた。
西白島町にあるフランス料理屋「MILLE」でディナーをいただいた。
この日は背伸びをした。ある分野に関してはこの日の食事と同じ金額を払うことに恐れることはないが、経験がないと、ついつい臆病になってしまう。メニューの内容を取り違える、肉を白いテーブルクロスに落っことす。この初々しさが面白くて、過去に何度か目にした光景は、よりによってこのタイミングでするのかという失態を犯すことを運命づけられた性情だと納得させられる。そこでなぜか安心してしまう。
逆三角形の足の長いグラスにナスのペーストとウニ、ジュレ等が層になった料理の写真を撮り忘れた。そもそも、この店では写真を撮る際に、断りを入れなければならないと家に帰ってから調べたこの店のサイトに記載されていた。勝手に撮っていたことをここで謝らなければならない。これからは気をつけよう。
コースの料理は写真の通り手に負えない。知らない味に、引き出された味、輪郭の定まった味に、たった一枚の小さなハーブの鮮烈さに、料理の奥深さに、食事中は次から次へとやって来る貴重な新体験に恍惚としていたが、家に帰り、時間が経つにつれて、深刻な気分に落ち込んでいった。
いかに自分は知らなかったという事を知るのは、知り合いに面と向かって自己の性質の悪さを指摘されるように、逃げ場のなさによって感情的に抗うような反応を引き出されてしまう。その場ですぐに受け入れることのできる人は羨ましい。まずは言い訳を猛烈にまくしたてて、あとあと反省がじわりじわり足元から上へ上へと濡らしていく。
そんな変化を味わわされた。それだけ自分を胎動させる刺激がこの店の味にあった。おそらく、大袈裟に受け止めているのは、その金額にもあるだろう。これは明確な基準を持たない者にとって、第一に信頼というか、相談相手となるのが金額の多寡だ。
実際の背伸びと違い、こういう類の背伸びは、伸ばした分だけ知らない景色を観ることができて、すぐに元に戻ってしまうにしても、頭の中に描かれた感覚は残り、それをまた欲しがり、後々になって実際に背を伸ばすことができる。
もっと知りたいから、確かめたいから、今度はランチで食べに来よう。
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