9月24日(月) 広島市中区基町にある広島市映像文化ライブラリーでダミアン・マニヴェル監督の「パーク」を観た。

広島市映像文化ライブラリーで、ダミアン・マニヴェル監督の「パーク」を観た。


町田の芹が谷公園、葛飾の水元公園、代々木の代々木公園、広島の平和記念公園、自分が知っている大きい公園の中で、この映画のような様相を見せられるのは……、全てだ。一分で一周できるほどの小さな公園でも、この映画のような一日を体験できる。


うら若い男女が公園で特別な何かをするわけではない。知り合って間もないだろう彼らは、経験が少なく、また大胆な気質でもないから、距離を詰める仕方が拙く、樹の下に二人で地面に尻をつけて座り、住んでいる家の場所や、学校での専攻の話など、まず基礎情報を交換する。


次第に二人は慣れていき、追いかけっこや、悪ふざけにきつい冗談も口にされる。口づけを交わし、芝に転がって若々しく新鮮な情愛の結びつきを素直に交差させていく。


公園という場所は変わらず、陽光の強さと音が時刻を告げていく。鳥の鳴き声、虫の音、ありふれた建築現場の生活音などが移ろいでいく。サッカーをする少年や、ランニングする中年など、どこでも見かける人々が思い思いに公園を過ごしている。


やがて日が落ちてくる。虫の音はより憂いと湿気を帯びて、大きな影に膨らんで飲み込まれていく木々と芝の中に、若い恋人同士は座り、男の子は時間が遅いからと帰り、女の子は帰りたくないと言ってそのまま座る。


忘れ物のタバコが落ちていることに気が付き、それを理由にメールして戻ることを期待するが、光はどんどん薄れていく。メールがあり、思いがけない展開になる。ありがちだが、唐突で、信じがたい内容が知らされ、公園は夜に包まれる。


それから傷心の女の子が公園を後ろ歩きで徘徊する。真っ暗な自然に溢れる公園を、藪を抜け、古く積もった木の葉で乾いた足音を響かせる。公園管理の男性が現れて、女の子が無言でうろつくのを心配して追いかける。このあたりから疑問が浮かび上がってくる。


昼の眩しい光景は、葉脈が透けて輝く空気良い夏の公園に溢れる。こんな時間をだれもが若い時に過ごしたことだろう。帰らなければならない定まった時間は、21時や22時など、無慈悲だから遠い時はまるで見ず、次第に時間が近づくと、あまりの早さと楽しさに何だか悲しくなり、体力があるから疲れによって無言になるのではなく、考えが頭を埋めて言葉を出しづらくさせる。


そんなことを映画を観ていて思い出す。映画や買い物などを初めてのお出かけにした人はいくらでもいるだろう。それもいいが、あまりにも雑然としている。それよりも、公園で常に距離を意識しながら話し、他に頼らずに健全な空間で、体を触れる為の口実としてのじゃれ合いなどの単純で強烈な高揚感に身を任せ、無言でいる幸福感を味わったりするのは、歳をとってからもできるだろうが、若い時のそれはじつにのびのびとして、たまらないものだろう。


やがて夜は深まり、周囲は全くの暗闇になっており、ふと女の子は気がつく。その夜の公園の底の見えない恐ろしさに、切実な要望として、帰りたいと口にする。これを日常生活の隠喩として自分は捉えてしまう。もう遅いのだ。こんな場面では、後悔は絶望へと静かに推移して、蕾が開くと、一斉に花弁が開いて全身に経験したことのない感覚が行き渡り、巻き戻せない時間という無慈悲な恐ろしさを痛感して、無駄な考えの巻き戻しに終止する。心の中では、いつでも自分には関係ないことで、他人の話だと区切りをつけていたことが、自分自身で眺める瞬間だ。一切笑えない。


公園の時間は一周する。昼の輝き、夜の沈み、公園は再び光に蘇っていく。それは一日の移ろいが、自然の風物という形によって表されているので、自然の少ない都市にいては気づけないダイナミックな空間の移ろいに、人間はいとも簡単に飲み込まれ、解放される。


公園は全ての人間を受け入れる。小さくても、大きくても。そこに小さな目的や、慎ましい感情があれば、公園はそれらを満たし、増幅させてくれる。若い男女でも、肉とコンロを持った仲間達でも、中年の酒に酔った孤独な男でも、社会的に許された自然の場所が、心と体の自由を許し、いくらだって幻想を描くことのできる場所なのだ。

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