7月26日(木) 広島市中区榎町にある「ラ・クロンヌ・ドル」でデジュネをいただいた。

「ラ・クロンヌ・ドル」でデジュネをいただいた。


前菜、鹿児島県産鶏もも肉のパロティーヌは、旨味の詰まった冷たさが、根セロリのフォンダンや、甘めのバジルソース、載っかった黒オリーブとアンチョビのタプナードが決然と味を添える。根セロリの風味は質量が強く、葉や茎よりも爽快でアクのある香味がクリーミーなまろやかさより全面に出てくるのが、とても感慨深く、西洋のスーパーにはいくらでもあるセロリの根がとても羨ましく、恋しくもなる。


スープ、林檎とカレーのポタージュはテーブルに運ばれただけで、この上なく色っぽい南アジアの女性を想起させる香気が立ち、一口入れると、生乳により穏やかであるも強気なスパイスの渾然一体が鼻をつくと同時に、なんと優しい林檎の懐の深い甘さが同時に口を満たすことか。タミール語で「胡椒の水」と呼ばれるマルガトーニ風のこのスープは、このうえなく自分の趣味に一致して、これだけで、この日の昼の食事はなによりの幸運だと喜びを感じた。


魚料理、オーブン焼きのハタは水気が多少あるも臭みはなく、落ち着いた味わいの白い身は、椀の底に湛えるサフランのブイヤベースの凝縮と明快な相性の良さを示す。魚介の持つ旨味の素晴らしさを思い知らされる。ガーリック味の白いルイユも一つのアクセントとして、オイリーな薬味の役割で小さな点描から味を広げる。二枚貝がこれまたしっかり味付けされていて、素材の良さが負けない釣り合いを見せている。パンであることを忘れた最も深度のある強い味のクルトンは見事に油分が破裂して、ブイヤベースの旨味ともつれ合って見事に口の中で昇華される。


デザート、ティラミス、マスカルポーネが柔らかく表面を覆い、中間層にバニラ、中心部に純度の高いエスプレッソの氷、掛けられたウッディな形状のか細いチョコ味も当然弱さはない。陶然とする美味しさに食後は締めくくられる。見事な美味しさだ。


スタッフの心配りも素晴らしい。暑いなかよくお越し頂きましてと、気持ちを込めて伝え、水はすぐに注がれ、いつだって注意を怠らない。スタッフのサービスは、美味しく食事を楽しむのに本当に欠かせない要素の一つだ。


ヒンギスタンのことわざに、祈りと食事は、一人でするのが一番良い、とある。一人の食事は、一人の登山であり、一人の美術館だと考えた。映画や音楽は、作品の時間に合わせて流れるが、食事も登山も、美術鑑賞も、自分の時間に合わせる。祈りも、瞑想も、思索もそうだろう。


個人の趣味によるが、コースで運ばれてくる食事のいただき方は、自分にとって心休まる鑑賞であり、自己との対話によって時間は満たされる。誰かと話しながらいただく食事も好きだが、一つの楽しみ方として、滋養を蓄える時間としても欠かせないのだろう。

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