7月13日(金) 広島市中区基町にある広島市映像文化ライブラリーでアドリアン・ゴイギンガー監督の「世界で一番幸せ」を観る。

EUフィルムデーズ2018、最終日の最後の作品、オーストリアのアドリアン・ゴイギンガー監督の「世界で一番幸せ」を観た。


薬物中毒者の生活が全編を占めている。面談に来る福祉管理局の関係者に放埒な生活をばれないようにする母親は阿片中毒者で、もし薬物中毒の仲間を頻繁に自宅に招き入れて阿片を摂取していることがわかってしまったら、愛する小さな一人息子と離れ離れの生活になってしまうが、体に不調を感じることもあり心に深い影を落とす阿片を止めたいと思っていても、阿片と息子という二つのものに依存していて、二兎を追う生活を続けており、やめられない弱さよりも、息子同等の作用で心に巣食う薬物の依存性の強さが際立っており、仲間が息子に悪さをすれば極度のヒステリーを起こして過呼吸気味に仲間を追い出し、朝起きたときに息子がいないことを知ると、周囲をたいして探しもせずに過呼吸気味に最悪を想定して警察に電話して探してもらうという自滅行為をしようとするほど冷静さを失う母親を、冒険を夢見る息子はとても愛しており、怪物をやっつける遊戯をするのは、薬物仲間がたむろする家のなかで一緒に生活し続ける悪影響しかない日常の中で生まれたもので、子供らしさのなかに生きるためにせずにはいられない必死の無視が表れていて、無知よりも、よく事情を知っているからこそ、ぐでんぐでんになっている大人達を観察するように静かにしたり、一緒に遊んだりするのを、大人達は何も感じておらず、そんな歪な生活が怪物というメタファーを息子の潜在意識に形づくり、映画の終盤に、仲間が過剰摂取で家の中で死んだ後で、家に怪物が現れたという幻を見てしまい、退治するために阿片の成分を抽出した飲み物を冷蔵庫から取り出し、大量に飲んで力をつけ、ロケット花火を弓矢に見立てて部屋に立つ幻の怪物に向けて放てば、すべてはカタストロフィとなる。火事と、心臓停止という目をそむけたくなる崩壊だ。


薬物依存の強さを本人がわかっているからこそ、救済となる言葉に過剰に反応して遠ざけようとする仲間の一人は、薬物中毒者の闇の本質をついていて、わかっているがやめられないという心理は酒、ギャンブル、買い物など、どんな分野にも多かれ少なかれ潜んでいる。


結果として母親は薬物中毒を克服し、仲間うちの一人の男も同様に立ち直り、二人は結婚する。冒険好きの息子も無事に蘇生して、大きくなってからこの映画を作り上げる。


「トレインスポッティング」のように退廃を憧れさせるような気取りなどこの映画にはない。薬物中毒の悲惨さを切実に訴えかけているのは、地についた経験から生まれている。

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