6月 広島市中区基町にある広島市映像文化ライブラリーで「アメリカ映画特集the RKO collection」を観た。

先週から広島市映像文化ライブラリーでアメリカ映画特集the RKO collectionが行われている。


水曜日に観たのが「Top Hat」。ミュージカル映画と聞くと、嫌いではないが浅薄なイメージが先行してしまう。しかしこの映画を観てすぐにフレッド・アステアのタップダンスの技量に驚嘆した。わざとらしい筋や演出、不自然とも思える物語の運びなど気にならない。明確に色分けされた個性ある登場人物や圧巻のダンスシーンに妥協なき映画作りの意欲を観て、決してミュージカル映画などと馬鹿にできない。とても好感を持てる、鑑賞後に陽気な気持ちで生活に向かわせてくれる愛らしい作品だ。


木曜日に観たのが「Swing Time」。これも前日に観たフレッド・アステアとジンジャー・ロジャースのコンビによるミュージカル・コメディで、嫌味のないユーモアと完璧な踊りは変わらない。雪山でのシーンでは、降り積もる雪の中で一昔前の中学生の男女のような濃厚でないやりとりに、爽やかな映画の立ち位置は象徴的に保たれていて、幻想的というより無垢な印象を受ける。当然のように細かい演技には上質の上手さがある。


金曜日に観たのが「Bringing Up Baby」。スクリューボール・コメディという聞き慣れないジャンルのこの映画は、尋常でないキャサリン・ヘップバーンの振る舞いによって、常に慌ただしく登場人物は動き回り、早口で喋り、滑稽な人の良い面白さを全面に振りまいている。冒頭のキャサリン・ヘップバーンの天真爛漫で傍若無人な人物を最初は不快に思うが、すぐにこれが可愛らしさに変わる。無茶な注文や、勝手な振る舞いも、ただ男を好きになったためのことからなので、当人にとっては迷惑極まりないが、とても愛らしく映る。細かい一挙手一投足に柔らかい演技が行き渡り、こんなに上手い女優がいるから、昔の映画は素晴らしいと思ってキャサリン・ヘップバーンを調べると、思った以上に偉大な人物だった。とにかく無茶な物語も気にならず、かわいい、かわいい、かわいい、とキャサリン・ヘップバーンの演技の妙を味わって笑うだけで十分だった。


土曜日に観たのが「Citizen Kane」。十年前くらいに観た時は、場面の把握できないこの白黒の暗い映画の何が良いのかわからず、始終退屈だった。しかし、今回はこの映画は驚くほど装いを変えて自分に表れた。ジグソーパズルで締められるこの映画は、見事な映像美が時代を行ったり来たりして細かい印象が散りばめられており、二度目だからこそ、新聞王のケーンの実像がよりはっきりとした輪郭で、味わい深く浮き出ていた。複雑だが、無駄は省かれており、とても純粋な美しさに構成されている。愛とはなにかという普遍的なテーマを、巨大な新聞王の人生を借りて、小さな動機から、重層的に発展されるが、帰り着くところはやはり小さな動機となる。欲しかったものは何か。良い映画だと思う。


来週も2作品上映される。ハリウッドの黄金時代という言葉の意味が少しだけわかった気がする。当然のように高い水準で完成されたどの映画も、とびっきり味のある俳優による呆れるほど高い水準の演技に、どれだけ苦労したか忍ばれる演出と、考え抜かれて打ち出された物語の構成を持ち、妥協のなさから生まれた執拗な質の高さへの要求は、映画への深い愛情から生まれていることが数分間観ただけで感じ取れる。


ハリウッドというのはただのアイコンではなく、確かな歴史を持っているのだと今回のアメリカ映画特集はわかりやすく説明している。

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