その7 退院

 結局、うつ病が治ったのかどうかは分からないが、私はとうとう退院した。


 死ぬ程苦しかったのが嘘のようだった。よく分からないけど生きてさえいれば、良いことあるんじゃないか?


 かなり楽観的に物事を考えられるようになっていた。悪い方向に物事を考えがちなのが、うつ病の特徴。


 そうか、気楽に生きていればいいんだ。


 私は、久しぶりの外の世界にもかかわらず、母の車の中で『とあるアプリ』をインストールした。


『将棋ウォーズ』


 人気そうな雰囲気が漂っていたからそのアプリを選んだ。早速、始めてみた。


 全国の将棋指しと勝負ができるこのアプリ。10切れ、3切れ、10秒と3種類の対戦形式がある。どういう意味だろう。


 なんとなく10切れを始めた。


 ランダムで対戦相手を検索。


 すると突然、アプリが『お前が先手だ!』と叫んだ。見ず知らずのアプリにお前呼ばわれされる筋合いはないが、取り敢えず私が先手らしい。


 初めての将棋。


 10切れとは、持ち時間が10分と言う意味か。つまり、時間切れ負けもあるということだ。


 訳もわからず駒を動かした。詰将棋のお陰で一応駒の動かし方は大丈夫だ。しかし、対局が始まって数手で『かく』を銀で取られたのだ。


 角は強力な駒であるが故に、私の王様はそれを期に一瞬で消し炭となった。


 完全な敗北。


 気を取り直して2局目。なんと、またしても角を取られた。なぜ、みんなそんにも角を取るのが上手いんだ?


 このアプリは課金しない限り、1日3局までしか指せない。


 将棋デビュー初日、私は黒星を3つ並べた。


 悔しかった。明日は絶対勝ってやる。


 死にたくて仕方がなかった私は、明日を望んでいた。

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