その6 将棋を指したい

 先生は、その言葉に全然驚いた様子ではなかった。


「最近のぷいさんの表情を見ていたら大丈夫だと思います。」


 呆気なく許可が下りた。もう少し様子をみましょうと言われるのかと思っていたのだが。


「今月末に退院ということで行きましょう。一応確認しますが、もう死にたいと思ったりしてませんね?」


「はい、大丈夫です。」


『死にたい』という感情は、『指したい』に変わっていた。詰将棋だけでなく、本当の将棋がしたい。ただそれだけだった。


「あなたが死ねば、周りの人は皆悲しみます。これから先、もし辛いことがあり、また死にたいと思えばここに帰って来なさい。帰って来るって言うのも変な話ですけどね。ほっほっほ。」


 そのドクターは、ムーミンに似ていた。

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