その5 湧いて来た意欲

 さらに半月程かけて、3手詰も一通りできるようになった。


 かれこれ入院生活も2ヶ月近く経過しようとしていた。頭の中のモヤモヤが少しずつ晴れて来たような気がする。


 きっとこれは、詰将棋効果だ。間違いない。


 私は、本当にそう信じ込み、母が面会に訪れた際、母から携帯を略奪した。別に悪いことをしようとしたのではない。


 ネットの口コミを見て、評価が高い詰将棋の本を買おうとしたのだ。色々比べてみて、私が良さそうだと思ったのは、浦野先生が書かれた『3手詰ハンドブック』。それを早速、Amazonにて購入し、自宅に届いた物を母に再び持ってきてもらった。


 面白い。羽生さんの詰将棋本とは違い、実にシンプルな詰将棋オンリーの本だ。羽生さんの方は、超初心者向けの為、解説が多目なのだが、『3手詰ハンドブック』は、質のいい詰将棋が見開きで4問も載っている素晴らしい本なのだ。一応断っておくが、羽生さんの本が悪いという意味ではない。


 ちなみに私は、今でも『3手詰ハンドブック』をこれまでの人生で読んだ本の中で一番面白い物だと思っている。詰将棋本を読むという表現は、少し可笑しいような気がするが、私にとっては聖書なのだから問題ない。


 ひたすら『3手詰ハンドブック』に明け暮れた。


 そんなある日、ドクターによる診察。


 私は言ってしまった。


「今月中には退院したいです。」

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