第4話 ドッジボール 前編

 5月とは思えない陽気。灼熱の校庭。時刻は午後3時15分。集められたのは14人の男女。今から始まるのは生死を賭けたバトルロワイヤル・・・・

「・・・ではない。断じてない」

「いいじゃないか、山西。大体似たようなものではないか」

 とりあえず、勝手に生死を賭けるのはやめようか。

 5月と言えばうちの高校ではクラスマッチがある。今日はその練習日。私、山西修子やまにし しゅうこもいつもは下ろしている黒髪を結わえて、校庭に馳せ参じている。

「いいか〜皆の衆、我がクラスの興廃、この一戦にあり!」

 さき程から異常なテンションで周囲を煽っているのは二子信治ふたこ しんじ。学業は極めて優秀ながら、日頃の言動だけを見ているとただのメガネの変な人である。

 クラスマッチの練習は放課後、各クラスごとに練習する。種目はサッカー、バスケットボール、そして、ドッジボール。サッカーとバスケは当然、爽やか系スポーツ男子が集まるので、残りの男子は必然的にドッジボールとなる。

 だから、ドッジボールの男子は、

「皆の者〜、敵は校庭にあり」

「おお〜〜〜〜〜〜!!」

 こうなる。

 爽やか系スポーツ男子を抜いた男子集団は、さっきから生死を賭けまくっている。二子の異常テンションが伝染しているようだ。ねえ、女子ドン引きしてるよ。


 ***


 ということで、メンバーを半分に分けてドッジボールが開戦。

 あれっ?

「どうかしたの?山西」

片平が不思議そうな目で尋ねる。彼も私と同じチームだ。

「いや、なんでもないんだけど・・・」


 ***


 ヒュー、ダン!

「一名当たり!」

 ドッジボールをやる上で大切なことがある。序盤で出しゃばらないことだ。

 ヒュー、ドス!

「よし、二人目!」

 多くの技量を持つ者たちはそれを示さんとして颯爽と序盤にボールを取りに行く。しかし、その分、序盤に被弾するリスクも大きく、試合後半では「ああ、あいつもいたんだ〜」的な扱いを受けることが多い。

 ヒュー、バーン!

「はい、3人目」

 ところが、序盤で出しゃばらず、最後まで残るとどうだろう。ぶっちゃけボールが全く取れなくてもヒーロー扱いである。こっちの方が美味しい。

 ヒュー、ドコーンっ!

「これで4人目だね!」

 ん?ちょっと、待って。うちのチームさっきから当たりすぎじゃない?・・・ってかボールの当たる音、エグくない!?

「あれっ!?」

 気がつけばうちのチームは3人になっていた。

 さっきから狙われない片平。

「右翼に着弾、メーデー、メーデー!」と、うるさい二子。

 そして、私。

「どうなってるの・・・」

 ヒュー。

 私の肩すれすれに風を切る音。

「あ〜、外しちゃった〜」

「なかなか、やりますね」

 私の横で二子がメガネを直す仕草。

「女子ハンドボール部で鍛え上げられた通称『神の右腕』。そこから、放たれる豪速球。佐藤さん、あなたは、」

 二子は今しがた私を狙った佐藤英子さとう えいこをビシッと指差す。

「高い工業力と植民地面積を誇り、パックスブリタニカを築き上げた、イギリス・・・グハっ!!」

 長々と喋る二子に着弾。外野からの襲撃だった。

「あ〜、頭はセーフか」

「あ、あなたは!」

 よろめきながらも二子は外野を振り返る。

「陸上部で培った高い俊敏性、通称『光のプリンセス』。小仏さん。あなたは・・・」

 今度は小仏さんを指差す。

「大国ゆえに気づいたら美味しいとこを持っていくフランス!」

 ・・・それ、小仏さんとフランスに失礼じゃない?

 二子の頭に当たったボールは大きく弾んでまた相手の内野へ。

「はい、キャッチ!」

 ボールを受け取った女子を二子はじっと見つめる。

「普段は帰宅部、しかし、色々な運動部から助っ人に呼ばれるオールラウンダー、田中さん、あなたは・・・」

 田中さんも指差す。

「6000年の歴史と誇りを持つ、眠れる獅子、中国!」

「・・・ごめん、ちょっと何言ってるかわからない」

 田中さんはボールを放つ。

 ベチっ!

 ボールは嫌な音を立てて、また二子に着弾。そのまま、外野へ転がっていく。ひっくり返る二子。私と片平は慌てて駆け寄る。

「ごめんね。顔面はセーフだ」

 可愛く両手を合わせる田中さん。

「なんてことだ・・・」

 二子が呻く。

「英、仏、中が揃ってしまった。我々の相手はクラスメイトなんかではない!・・・連合国軍だ!」

 それが言いたくて君は頑張っていたのか・・・。

 こじつけ臭いのはおいておくとして、彼の言う通り、私たちは敵に回してはいけない者を相手にしているらしい。

        


      <中編に続きます>

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