第18話 復讐と冷徹

 この屋敷には、一般的な屋敷にはあるはずのないものがある。それは、エントランスの階段の裏にある。それはとても薄暗く、その存在を知らないと気づかないぐらい、ひっそりとたたずむ扉。その中には金属でできた椅子がある。他には何もない。普段、扉は固く閉ざされるが、時間になると扉が開けられる。


 そんな扉の前には二人がいた。

 一人はぺたりと座り込み、声にならない声を上げ、もう一人は棒のように立ち尽くしている。

 扉が開かれ中から三人出てきた。そのうちの一人の手には銃が握られている。

「お……る……と……る」

 水沼がふらふらと立ち上がり、部屋の中に入って行く。

「銃を回収します」

 執事は京也から銃を回収し、小さいアタッシュケースの中にしまわれる。

 扉は大きな音を反響させ、閉じられる。扉の外に締め出された三人は歩き出す。執事は動かなかった。

 扉の中から大きな声がする。何度も、何度も、中だけで響かせ、外には漏れない。

 扉の外には、もう誰もいなかった。


 *


エントランスから食堂へ向かう道中。二人は床を見ていた。

「京也、ほんとにこれでいいのかな」一樹は立ち止まる。

「なんのことだ」京也は一樹の少し前で止まる。右手はポケットに押し込まれていた。

「いや、まだ遠野さん黒って決まったわけじゃないのに処刑しちゃって」

 京也の鋭い視線から逃れるように、一樹は顔を伏せた。

「人の命はそんなに軽いものじゃないと思うんだ」

「そんなことは知っている。だが、あの人は自分が白だと決まったわけでもないのに、目立ちすぎたんだ。狂人でないなら戦犯以外何者でもない。俺たちを殺そうとしているんだ。あいつも死ぬ覚悟はできてるはずだ」

 京也の目はどこか遠くを見ている。

「あぁ、俺は一刻も早く人狼を殺さなくちゃいけないんだ」

 その目には、静かな殺意があった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る