第2.5話 私と彼。

私の名前は伊藤 葵(いとう あおい)私立近江原高校の入試首席。眉目秀麗 頭脳明晰 一件非の打ち所のない完璧人間だと思われているけれど、そんな私にも一つだけ誰にもバレてはいけない、重大な秘密がある。それは私が、、、、、、、『男装女子』であること。故あって男装している私だか、まあ一般的にバレたらまずい、良くて停学、最悪退学だろう。どちらにせよ周囲の目は痛かろう。

「5時間目は数学だっけ?」

私は数学Iと書かれた教科書とノートを持って5B教室に向かった。

「キャー、葵くんよ〜」

いつもの事だ、何故か私は学年で注目の的らしい。自覚はない。確かに容姿端麗なのは自他ともに認める事実だけれども今は男装しているのだからそんなにキャー、キャー言われても嬉しくない。

「やぁ、葵くん」

「こんにちは、桜花さん」

彼女の名前は、村瀬 桜花さん。近江原高校入試次席の彼女は私がライバル視している、1人なのである。首席と次席と言っても、国語、特に現代文と、社会科目は10点もの差を付けられて負けている。

進学校なだけあって、みんな授業を真面目に聞いている。5.6時間目と授業を受けて、SHRの時間

「起立!」

あたしの合図で全員が立ち上がる。

「礼!」

「「さようなら」」

そしてバラバラとクラスの子が帰っていく。この学校では、テストの順位が1〜5位までの人がそのクラスの委員長をするということになっている、だから入試首席の私は当然委員長。

「トイレ、行ったら帰ろ。」

私は溜まっていた尿意を出すためにトイレに向かった。

「この格好で女子トイレに入るのはなんだが変な気分ね、、、、」

でも、仕方の無いこと。不可抗力と言うやつである。

一番奥の個室、開けて、閉めて、ズボンをずらす。それがダメだっだ、なぜ閉めた時に鍵も一緒に閉めなかったのだろうか。この頃に戻れるのなら、なぜ閉めないのか私に問い詰めたかった、けれどもう、後の祭り。時すでに遅しである。

扉が開いてしまった。



「「、、、、え?」」

同時だったと思う。見られた?パンツを下ろすとこだった私は手をパンツにかけたままフリーズしていた。

、、、、、、、、、

、、、、、、、、、

、、、、、、、、、

「いつまで見てるのよ!!!!変態!エロス!ドスケベ!」

と、叫び意識が戻った時には私は彼女を殴っていた。

よく見ると彼女は桜花さんだった。

そして彼女はこういった。なぜ男子である私が女子トイレに居るのか、と、まぁ当然の疑問。なんの言い訳も見つからなかったので、仕方なく真実を明かすしかないと思った。もしかしたらもう学校には居られないかもしれない。万事休す、絶体絶命、とはまさにこの時のための言葉なのだなと私は実感した。

「見ての通りよ、私は女よ。」

言ってしまった。もう後戻りは出来ない。どうなろうとも彼女次第である。

「お願い、誰にも言わないで。」

一応縋ってみる、すると効果はあったようだ。彼女はこういった。男装をしていた理由を教えてくれと。私はアンタには関係ないでしょ、と突き返したのだが、彼女は、私の秘密をひとつ教えるから、あなたの男装のことも教えて欲しい、もちろん他言はしない、と言ってきた。決して悪い条件ではなかった。相手の秘密を知れるし、最悪バラされたくなければバラすなと、脅すことも出来るのだから。

私はその条件を飲んだ。そして彼女はつばが悪そうに、ポリポリと頭をかいて言った。

「、、、、、、私、いや、僕、男なんだ。」

と。

衝撃の告白から30分後私達は帰路に着いていた。道中では、何故私が男装していたのかなどの話をしていた。

「あ、私こっちだから。絶対に言うんじゃないわよ。言ったら末代まで呪い殺してやるんだから。」

釘をさしておこう。すると『彼』は

「誰にも言わないよ。」

と言って、行ってしまった。

この時の私はまだこの後に続く苦の物語を知らなかった。



家に着く。至って普通の家だ。

「ただいま。」

そう言うと、ドタドタドタとリビングの方から足音が近づいてくる。母親である。

「おかえり、葵。そうだ、この前の話覚えてる?」

「あー、再婚の話でしょ?」

母は、近々再婚するらしい。私の父が死んでから15年、私がまだ2歳の頃に交通事故で亡くなったそうだ。どんな人だったのかは知らない、物心着く前にはいなくなっていたから。でも母はよく、優しい人だと言っていた。母の負担が軽減されるなら、再婚はいい事なのだろう。

「私は別に構わないわ。」

「ありがとう。でね、今向こうさんから連絡があって、明日会えないかって。10時に向こうの家に。」

とても急な話だった。

「急ね。」

「だって今、連絡来たんだもの。向こうさんも息子さんにOK貰ったから、家族で合わないかって。」

ん、んんんん?今、息子って?息子って言いませんでした?

「向こうは息子が、男の子がいるの?」

すると母は顔を傾けて、

「ええ、いるわよ?どうして?」

「いや、だって同じ屋根の下、その男の子と住むんでしょ?」

貞操の危機だってあるかもしれない。

「、、、、あぁ、そういう」

母は困ったように頭をかくと、

「んーダメかなぁ?」

と、女子高生バリの困った顔をしてくる。これは反則でしょ。そんな顔をされては断るに、断れない。

「べ、別にいいわよ。」

「やった〜ありがとう。葵〜」

母は両手を広げてこっちに走ってくる。それをひらりと交わして、自分の部屋に入っていった。

1晩中考えていた、相手の男子について、でも、男子について考えると『あと男』しか頭に出てこない。あの変態野郎。

そう考えているとだんだん睡魔に体が蝕まれていった。気がつくと、いや、気がつくまもなく、意識は切れていた。


私はまだ知る由もない。明日起こる、私にとっての人生の分かれ道を。

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女装男子と男装女子 牡蠣 大地 @kakiy

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