きゅっきゅちゃん、三十七匹目

 その場所は

 その店は。

 外見こそ普通の民家だった。


 しかし一歩なかに入ると、無機質なそこは、非日常を思わせる。

 外観からは想像つかない、コンクリートで覆われたその箱の、中央に蛍光灯が薄暗く点っている。

 埃臭い。

 そして、うすら寒い。


 気温も、明らかに低いだろう。

 だがそれ以上に


 見られている。

 じっと。

 視線がまとわりついて離れない。

 そのことに寒気が止まらない。

 しかし体を震わせることはできない。

 本能が叫んでいる。逃げろ、と。

 だけど同じく本能が叫んだ。もう無理だ、と。


 きなこが警戒に体毛を立てている……が、ごく短毛だから良く分からない。

 鳴かないのは、向こうの存在感に屈しているからか。

 ……知らせる意味がないとわかっているからか。


 ユウキを見上げると、苦笑というか、自嘲というか。乾いた笑みを浮かべていた。

 なんといいますか。


『ごめん』?


 なにに対してだ。ここにつれてきたことにか。


 彼女は、意を決したようだった。

 粘っこい、うすら寒さすら感じる視線はそのまま。

 ゆらり、ゆらり、と近寄ってくる。

 その様は幽鬼そのもの。……いや、もっと恐ろしいものだ。


 俺はきなこを自分の背中に隠す。


 が、無駄な抵抗のようだった。

 するっ、ときなこを奪われる。

 そして、彼女は言った。


「これ、欲しい。頂戴?!」

「ダメです」

 一転、キラキラと顔を輝かせて盛大に炸裂した一言に。

 速攻ユウキがぶった切った。

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