きゅっきゅちゃん、三十一匹目

 朝御飯は大体パン食である。

 トーストに牛乳、サラダとハムエッグ。

 デザートにフルーツヨーグルト。


 母さんの作るご飯はわりと豪勢だ。

 この家庭に産まれてきて良かったと思う点のひとつである。


 きなこも同じものを用意してもらっている。

 が、ヨーグルトは抜きらしい。

「きゅっきゅちゃーん!」

 いただきます、なのか?

 一声あげてからパンにかじりつく。

 ついでに、パンは6枚切りを1枚。16等分にしてさらに盛り付けられていた。

 サラダもパンと同じ皿に入っていた。

 つか、そうか。食事用の皿、ひとつしか買ってねーもんな。

「あー。今日、ベッド買い忘れたから買いに行こうと思うんだけど……。ボウル、何個か買ってきた方がいい?」

 母さんに提案すると、母さんは笑顔のままひとつ頷いてくれた。

「そうねえ……全部一緒はちょっと可愛そうかしら」

 きなこちゃんお利口さんだもんねぇ。

 という母さんをきなこは「きゅきゅ?」と声をあげつつ見上げた。

 理解してるのか、してないのか……。

 いや、たぶん理解しているな……。

「じゃあ、買ってくる」

 母さんのご飯は最低でも2皿くらいあるので、皿は3、4枚あってもいいかもしれない。

「お金足りる?」

「まだあるよ。大丈夫」

 きなこがご飯を食べているのを眺めつつ、俺もご飯を平らげる。

 いやぁ、きなこがいる生活……いいね。

 華があるっていうかさぁ……。

 癒しだわ……。

 まだ、二日目だけどこんなに癒されるとは……思ってなかったなぁ……

 こんなにかわいい生き物(?)を、みんな知らないなんて……あんな辺鄙なところで秘匿されてるなんて……もったいない……

 あ、いや。秘匿されてて、よかった……のか?

 俺が独り占めできるしね?


 ……や、それはもったいない……

 このかわいさはみんな知るべき。


「きゅきゅーん……」

 たしったしっと肩に振動を感じて俺は現実に引き戻された。

 どうやら、きなこが俺の肩を叩いたらしい。

 触手のような手が戻っていくのが見える。


「あ? ……食べ終わった?」

「きゅきゅん」

 牛乳も飲み干したらしい。

 ウィスカーパットに牛乳の泡がついている。

 かわいいなぁ……

 テーブルにおいてあるティッシュを片手に拭いてやる。

「きゅきゅきゅ……」

「あーあー……暴れるなって……」

「きゅきゅー!」

 ウィスカーパットに触れられるのは嫌らしい。

 うごうごと反り返ったりじたばた暴れるきなこ。

 つり目がより険しくなっている。

 が、泡がついたままは……まぁ、かわいいけど、ちょっとお洒落じゃない。

 あーだこーだしつつぬぐってやり、そのままきなこを抱えて母さんに「行ってきます」と声をかける。


「きゅきゅん?」

 きなこが不思議そうに鳴いた。

 なにするんだろう、といったところか。

「買い忘れたものを、買いにいくんだよ」

「きゅっきゅちゃん」

「……仲間は……もう少し経ってからなー」

「きゅっきゅちゃー……」

 なんとなく、言いたいことがわかるようになってきたかもしれない。……気のせいか。

 きなこがフスッと息を吐く。

 だからその感情はなんなんだ。

「きゅっきゅちゃー……きゅっきゅちゃん。きゅっきゅっきゅっきゅっ」

 ……ごめん、やっぱ言ってることわかんないや……。


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