きゅっきゅちゃん、三十匹目

 泣き止んだきなこと一緒にベッドに入り、きなこは速効寝た。

 俺も然程時間をかけずに就寝。

 目覚めたら朝だった。


 きなこはまだ寝ている。

 ほんと、よく寝る……。


 きなこを起こさぬように、そっとベッドから抜け出したつもりだったが、きなこも起こしてしまったようだった。

「きゅっふー」

 にょーん、とまた手を伸ばしている。

 が、すぐにシュッと格納した。

 ……ナニソレ、かわいい。


 時計をみるとまだ6時だった。

 が、寝る気にならないので、きなこを抱き抱えて一階へ降りる。

「きゅ」

「俺は風呂入るけど、待ってる?」

 尋ねつつきなこを床に下ろせば、きなこは俺についてくるようだった。

 入るのか、風呂。

 嫌いじゃないのか?


 きなこは一般的なきゅっきゅちゃんの枠に当てはまらないきゅっきゅちゃんなのか?


「きゅきゅっ、きゅっきゅちゃ~ん♪」

 きなこは機嫌が良さそうだ。

 まあ、なら、いいか。


 ……。


「あら、早いのね、ハルト」

 唐突に声を掛けられ、俺は盛大に驚いた。

 声をかけたのは母さん。

 まあ、浴室前でシャワー片手にしゃがんでたから声を掛けたんだろうけど……

「何してるの?」

 案の定。

 興味をそそられたらしく俺の手元を覗き込んでくる。

「あら」

「きゅっふ~♪」

 俺の目の前には、湯の張った盥に浸かったきなこがいた。

 面白いので絞ったおしぼりを頭に乗せてやっている。


 シャワーだけで済ませようとした俺に、きなこがぐずったのだ。

 風呂嫌いどころか、浸かりたい派らしい。

 湯船にお湯はるのも面倒だったので、盥にお湯をはって、浸からせたのだが……割りとお気に召したらしい。

 結構長湯してたりする。

 母さんが起きてきたってことは、多分1時間近く入ってるな……


 ついでに俺は湯冷めするのでもう服を着ている。

「気持ち良さそうねえ……」

 ほほえましい、と母さんが笑いながら俺の後ろにしゃがみこむ。

「めっちゃ、お風呂好きみたい」

「きゅ? きゅっきゅ」

 母さんの存在に気づいたからか、それとも得心いったのか、きなこが自力で盥から這い出てくる。

 ずるり、と床に出てくるので俺はバスタオルできなこを拭いてやる。

 わしゃわしゃー。

「きゅっきゅ~」

 めっちゃ気持ち良さそうだな?


「……」

 ?

 母さんが不思議そうな顔をしていた。

 ……なんだろ?

「ハルト……やたら手慣れてるわね」

 ん?

 ……

 あれ?

「そうかな?」

 首を傾げつつ、タオルである程度拭き終わったきなこをドライヤーで乾かす。

 ちゃんと熱くないように気を使いつつ……

「きゅふぅ……きゅきゅー」

 とろーんととけだすきなこを、毛並みを整えつつ乾かしてやる。

「……学校とかでそういうの教えてくれるの?」

 かあさんが不思議そうに言う。

 ……あー。えー? そんな不思議がるもの?

 当然、学校でそういうことは教えてくれない。

 学校が教えてくれるのは、前世と一緒である。


 が、まあ……この家で動物を飼うのはきゅっきゅちゃんが初めてで。

 つか俺自身は前世も含めて動物を飼ったことないし。

 きなこが初めてである。

「学校に動物小屋とかないよ?」

「そうなの?」

「わりと手探り状態なんだけどなあ……。牧場の人(つかユウキだけど)に色々聞いてるけど……」

 きなこをブラッシングしてやりながら言う。

 つか、きなこ。めっちゃ物わかり良いから助かる。

 わからないことはきなこに相談すれば大体教えてくれるし、それでダメならユウキに聞けば解決するから、ありがたい。

「ほんとは、お母さん。もっとお母さんがきなこちゃんを世話しなきゃいけないのかなーって思ってたのよ。でもしっかりお世話してるみたいで、安心したわ」

 と、母さんが微笑む。

「えぇ……お世話はきちんとするってのが約束だったじゃないですか……というか、まだ1日目ですよ……」

 安心するの早すぎない? と思わず敬語になりつつ返す。

 きちんときなこを乾かしてから、抱える。

 昨日よりほわほわで抱き心地最高。

 ブラッシングの賜物か。

「そうね。まだ1日目だもんね。……まあ、朝御飯食べましょうか」

 にこっと笑って母さんが台所へ向かっていった。

 その背中を見送って、俺はきなこを見下ろす。

「まあ、誠心誠意お世話するよ? 可能な限りなー」

「きゅっきゅちゃー……」

「や、学校行ってる間は無理だし。学生の本分は学ぶことってなー」

「きゅっちゃー……」

 わかってるのかわかってないのかわからないことは合いの手と共に、俺もリビングへ向かうことにした。

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