きゅっきゅちゃん、二十四匹目

 歓楽街には多種多様な店が並んでいる。

 大抵のものは歓楽街にいけば揃うくらいには。

 で、歓楽街には24時間営業の店も少なくない……というか、大抵の飲食店や大型商店は24時間営業である。

 ま、この世界。

 ワーウルフやヴァンパイアを初めとして夜行性の種族も多くいるので、そういう方々が夜働いているのだ。

 ついでに、”いかがわしい”お店は夜しかやってない。……残念。

 で、今から行くのは最早数少ない24時間営業”ではない”、個人店な訳なんだけども。


「また入り組んだ路地をいくのね」

 細い、対向できない……というか、人一人がやっと通れるような路地裏を行きながら俺は口を開く。

 前を行くユウキが苦笑する気配がした。

 ついでにきなこは俺の腕のなかだ。

「こっちは、わざと人のいけない場所に作ってるからねぇ」

「わざとっすか」

「おう。アイツ、まじ人嫌いだから」

 ケタケタとおかしそうな笑みがユウキから聞こえる。

「人嫌い、多すぎやしませんかね」

「ま、墜ち人はしゃーねーって」

 おや? その言いぐさ……

「理由、あるんだ?」

 墜ち人……異世界から転移してきた人々のこと。

 今はそれほどでもないが、かつては結構、墜ち(転移し)てきたそうで。

 ついでに、俺みたいな転生者は墜ち人に含まれない。まぁ、だからって何かあるわけでもないのだけれども。

 しかし、墜ち人には理由があるのか?

 ふむ、興味深いな……。

「この世界に転移するには『住んでた世界に絶望している』っていう条件がるのさ」

「え、俺あの世界に絶望してないけど」

「お前、転生者だろ? ゆうきが引き込んだらしいけど。……体ごと、そっくり持ってくるにはある程度条件があるんだよ。普通は俺みたいに蒸発するし」

「ん?」

「……いや、俺はもっと特殊か。そもそも世界、なかったしな」

「?」

「俺がこの世界の創造神だって忘れてないかー?」

「あぁ」

 そういえばそうだっけ。

 つまり、優樹がきたときはこの世界……こんな形じゃなかったのか。

「なんもなかったよ。魔力と、先に散っていった無数の……無念とか、そういうの以外」

「うぇ……」

「あとは、この世界の意思か……」

 もういないけど。

 そう付け足してユウキは右へ曲がる。

 その先に、やっぱりひっそりと。

 その店はあった。


「ま、ここの店主は墜ち人で、とある神の分霊の欠片を内包した……なかなか稀有な存在でな。もとからコミュ障だから、あんまうまく喋られん。いいやつではあるんだけど、なぁ……つーことで」

 と、風が駆け抜ける。

 魔力風。高純度の魔力を練ることで起こる不自然な圧、そして風。

 下から煽るように起こったその風に髪を遊ばせてユウキが魔術陣を展開する。

 瞬く間に複雑に、精緻に刻まれていく陣は、しかし溶けるように掻き消える。

 違う。

 発動している。

「防御?」

「ま、ある種の結界。普通はこんなことしないんだ、が……」

 対神様特効の無敵貫通はさすがに痛い。

 その言葉を残してユウキは扉に手をかけ……


 吹き飛んだ。


「は!?」

 爆音と共に、路地に扉ごと吹き飛ばされごろごろと転がって消えるユウキを目で追い……損ねて、どこにいったかわからなくなる。

 吹き飛んだ扉は俺の遥か後方に落ちて派手なおとがした。

 そして、なくなった扉を越えて、女性が現れた。

 大きなウサギのぬいぐるみを抱えた彼女は、襟足辺りで長い藤色の髪を二つに束ねている。

 黒いスパッツに白いカットソーそして藍色の法被。眠そうな翡翠の瞳はとろりと蕩けている。

 そして左腕にはばかでかい大弓。

 和弓だろうか。しかし材質が竹っぽくない。

 どっちかと言えば石。繊細な細工が施された、でかい……彼女の身の丈ほどある弓を腕に引っ掻けている。

 弓はあれど、矢はみあたらない。

 ……あれでユウキをぶち抜いたのだろうか……。


 彼女は辺りを見渡し、それから瞬く。

 数拍。

 そして俺を見た。

 翡翠の瞳の奥、なにか揺らめくような光が……?

「……あなたが、お客?」

 穏やかな声だった。

 思った以上に、静かで、だけどよく通る声だった。

「え、あ?」

 どう答えたらいいかわからず俺はユウキのふっとんだ先を見た。

 ユウキが戻ってくる気配はない。

 そんなに遠くへ飛んでいったのだろうか。

「おどろい、た。ユウキ、お客つれてくる、なんて」

「早とちりでぶち抜くなよ!」

 と、ユウキの声。

 上空から舞い降りてくる。

 飛んできたのか、どうなのか……。

 軽い音を立てて地面に足をつけたユウキは所々煤けていた。

 衣服はボロボロといって良いほどで、まぁ、あんだけ吹っ飛ばされたらそうなるよなぁ……と言える。

「また、狩りに誘われるくらいなら、先にヤっておこかと」

「軽率に殺そうとすんな!」

 ついでにきなこはあまりの驚きで気絶している。

 俺の腕のなかで白目を向いていた。

「まぁ、死んでなくて、残念。とりあえず、なか、どうぞ?」

 死んでなくて残念いったぞこのねーちゃん。

 かなり過激だな?

 もはや突っ込む力すらなくなったらしい、ユウキはぜぇぜぇと息を繰り返しつつ店の中へ入っていく。

 そんなユウキのあとを追って中へ入れば。

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