きゅっきゅちゃん、二十五匹目
無数の顔がこちらをみていた。
否、それはぬいぐるみだ。
無数のぬいぐるみが並んでいた。
犬、猫、羊、ぱんだ、鹿……デフォルメされた動物のぬいぐるみが無数にある。
奥の方に、ビニールプールがあって、そのなかには鮫やシャチなどのぬいぐるみがいた。
なんか、凝ってる。
建物自体はやはり木造。
と、いうか。
-八番街-の建物は、基本的には木造である。
条例で決まってるのだとか。
古い、古民家といった雰囲気で、太い梁には所々バスケットがぶら下がっている。
そのなかにはご多分に漏れず、いろんなぬいぐるみが乗せられている。
ぬいぐるみ屋。
なるほど、ぬいぐるみしか置いてない。
「きゅ」
「あ、起きた」
声がしたので、下を向けば、きなこがもぞもぞと俺の腕のなかで身動いでいる。
「ぬいぐるみ、じゃ……ないのね」
と、きなこをみて女性が呟いた。
まぁ、確かにふざけた見た目だし、生き物っぽくない。
どちらかと言えばクッション、もしくはぬいぐるみか。
「ネイトー、今からこいつそっくりのぬいぐるみつくったら何日かかる?」
と、ユウキがきなこを指して問う。
「……待って、材料。そろえることから、はじめなきゃ。……1週間、くらい?」
「じゃ、頼むわ。お代は俺が払うから」
「わかった」
と、女性が自らのサテライトを呼び出す。
黒い、ウサギのぬいぐるみのような……赤い瞳のそいつは、大きな鎌を手にしていた。
「ルイン、注文、メモして」
『おっけー』
鎌を器用にくるくる回し、サテライトが消える。
やっぱ、種類が多くていいなぁ……。
大人になったら、かわいいサテライトと契約しよう。
「いいの?」
「あー。だってきなこも一人じゃ寂しいだろ」
学校のときとか。
とユウキは首を傾げながら言う。
……まぁ、学校につれていくことはできないし、なぁ……。そりゃ助かるんだが。
つか、その為にここにきたわけだが。
何から何まで至れり尽くせりである。
「……出世払いでなにか返すわ」
「別にいいのに」
クスクスとユウキが笑う。
なんというか、子供っぽいとこには不満を抱くが、大人っぽいムーブとられても、釈然としない……。
こういうところで大人みたいな対応せんでいいのだ。
「きゅー」
と声をあげるきなこ。
いつのまにか手を伸ばしている。
って、結構際限なく伸びるんだな、手。
手というか、触手である。
一本だけ伸ばされた触手はビニールプールの方へ伸びていて。
俺はそのプールへと近づいた。
きなこが俺の腕から降りて、ビニールプールの中に落ちる。
「あ、ちょ」
「きゅー」
きなこは鮫のぬいぐるみの上へ乗っかり、声をあげていた。
全長1メートルほどの、デフォルメされた鮫のぬいぐるみ。
フェイクファーでできているのか、きなこよりふさふさしている。
背中は紺色、口許から腹部は白い。
なんか、前世でみたことあるような……
楕円の瞳は黒一色で、ギザギザの歯はフェルトだろうか。
かわいいけど、どっかで見たような……。
「ほしいの?」
きなこに向けて尋ねれば
「きゅっー!!!!」
噛んだ。
鮫のぬいぐるみの、背鰭部分を思いっきり。
あぁ、穴、開いたな。
きゅっきゅちゃんの口のなかは、猫と似ている。
ので、確実に最低でも2つの穴が空いているはずである。
……。
「ちょ、それまだ金払ってない! きなこぉおおおおおおおお!!」
めっちゃ叱った。
とりあえず、噛んだ鮫のぬいぐるみは購入した。
「きゅー……」
まだ噛んでる。
既に鮫には2本の噛み後がくっきりとついている。
鮫のぬいぐるみだけを持っていてもきなこは離さない。ぷらーん、と噛む力だけでぶら下がっている。
「あー。このぬいぐるみ。きゅいきゅいさんに似ているのか」
納得、とユウキが頷いた。
「なにそのふざけた名前」
ユウキに半目を投げれば、ユウキは首を傾げた。
「きゅいきゅいさん。きゅっきゅちゃん牧場の隣にあっただろ」
「見てないなぁ……」
正直に答えれば、ユウキが笑みの種類を変えた。
……
怖いっ!
能面のような笑みのままユウキがサテライトを呼び出す。
数拍。
「ま、いいや」
と呟いて、それから新たにウィンドウを展開した。
そこに映っているのは、きなこが噛んでいる鮫のぬいぐるみにそっくりな……しかし追加で足が生えた、よく分からない生物だった。
「きゅいきゅいさん、きゅっきゅちゃん、にゅうにゅう、そしてポチ。-八番街-4大不思議生物だよな」
さらりと宣われる。
……不思議生物っすか。
「ついでにきゅっきゅちゃんはきゅいきゅいさんに勝てない。あときゅいきゅいさんは簡単な作業はこなしてくれる。結構献身的で可愛いやつだぞ」
「へー」
「きゅっきゅちゃんを増やすならきゅいきゅいさんも救ってやってくれ。住むとこと3食保証したら喜んで働いてくれるから……」
「なんか健気な気がしてきたぞ」
「めっちゃ健気」
そうか、健気なのか……。
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