きゅっきゅちゃん、二十三匹目

「きゅきゅー」

 声がする。

 声の主を探して下を向く。

 きなこがいた。

 起きていた。

 そして

「きゅきゅぅ~」

 美味しそうにわらび餅を食べていた。

 ほとんど完食だった。

 五平餅は影も形もない。


 ……。

 おや?

 俺は、まだ抹茶オレしか飲んでない。


「……」

 頭が冷える感覚がある。

「……」

 ユウキが明後日の方を向く。

 きなこが俺の視線に気づいたらしい。

 上を向く。

「きゅ……」

 目線が、合った。

 

「きなこ」

 名を呼んで、笑ってやる。

 それにきなこが安堵したような雰囲気を出して

「許すと思ったかお前」

「きゅぅううううううううううう!?」

 俺は問答無用できなこの顔を両手で引っ張ることにした。

 めっちゃのびた。

 めっちゃ気持ちよかったが、俺の気持ちは収まらない。

 とりあえず、きなこが涙しきゅうきゅう泣くまでほっぺたをむにむにすることにした。

 呆れたユウキが店員さんに和菓子を追加で頼んだのは、追記しておく。


「きゅー……きゅー……」

 ほっぺを(つねられたせいで)真っ赤にしたきなこが縁側のすみから鳴いている。

 そんなきなこを横目に俺は新たにきた磯辺焼きを食べていた。

 しょうゆにつけた餅を海苔で巻いたそれは、よく餅が伸びておいしい。

 よく焼いた餅にしょうゆをかけているのか香ばしくて、甘すぎないのがいい。

 のりもあぶっているのか。パリッとしているところと、餅の水気をすっているところとがあって面白い。

 うん、うめえな?!

 きなこが喜んで食べていたのもわかる。

 ……まぁ、ゆるさないがな。


「きなこや、食い物の恨みは恐ろしいってわかったか?」

 こっちゃこいこいと手招きしながらきなこに声掛けるユウキ。

 そんなユウキのもとへきなこは俺を避けつつそろりそろりと移動していく。

 手足がないので這うように。

 きなこを捕まえ、自分の膝に乗せたユウキはむにむにときなこのほっぺたを揉む。

 よく伸びる、餅のような体だった。

「……しょうゆまぶして食べたらうめかな? もしくはきなこ」

 ぼつり、と零す。

「きゅきゅん!?」

 まぁ、冗談だが。

 完全に怯えているきなこはガタガタと体を震わせている。

 あぁ、反応が面白い……。

「きゅっきゅちゃんは焼いても煮ても食えないぞ」

 冗談だとわかっているのか、本気にしているのか?

 ユウキは何気ない声でいう。

 目線はきなこから離さず、撫でる手つきも変わらない。


「レンジとかにいれると軽率に皮はめくれるんだけどなぁ……そっから先は熱が通らないし。火が通る頃には跡形もねーもんなぁ……」

 きなこの震えがよりひどくなった。

 ちょっとさすがに可哀そう。

 しゃべることはできないが、俺たちの言っている言葉は完全に理解できているらしい。

 きなこ、やっぱ賢い子だわ。

 賢いのだったら、俺のお菓子を盗み食いしないでほしかった。

 食欲に負けたのか。

 ならしょうがないな。

 ここの和菓子、想像以上にうまいもんな……。



「きなこ、この和菓子うまいな」

「きゅきゅー!」

 俺の膝にのっかってくるきなこ。

 おや、もう反省タイムは終了か。

 背中を撫でるともちもちすべすべで……

「やっぱきなこもちだな」

「きゅきゅ……」

 糸目が俺を見上げて小さく呻く。

 視線が「食うのか」と訴えていた。

 食べないって。


 ……教えてやんないけど。


 きなこはもう少し怯えて反省しているといい。


「きゅきゅー」

 涙さえ流して鳴くきなこ。

 うーん、Sっ気はないはずだが……

 加虐心が、むくむくと……。


 これ、あれだ。

 可愛い子をいじめたくなる気持ち。


 ……自制しないとなぁ……。

 

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