きゅっきゅちゃん、一匹目

 どっかに転がりでた感覚。

 ころころと転がっていたが直ぐに勢いがなくなって、座った体制で止まる。


 覚醒は一瞬だった。

 ぱっと視界が晴れる感覚……というのは、なかなか珍しい体験をしているのでは?

 きょろきょろと辺りを見回せど、何もない。

 ただただ、白い。うーん、まっしろ。


 どこじゃろな? ここ。

 なんというか、現実感が全くない。

 おおよそ、物理法則が働いているように思えないというか……

 なるほど? あの世とはこういうもんか?


 おかしいな。

 人に聞いてたあの世は、きれいな川が流れる……白い花が咲き乱れる場所だっけ? あれ、山……だっけ? 忘れた。まぁ、あの世なのだろう。


 きょろきょろと辺りを見渡していると、ふと、人が座っていることに気付いた。おぉ、第一村人発見。

 ……村人?

 というか、結構近い。そんな場所に誰かいたっけ? 結構見回してたはずだが。

「あんのー」

 声をかけてみると、その人は大きく体を震わせた。

 とても驚いたようだ。すまんことした。

『え、あ? 人!?』

 勢いよく振り向くなり、飛び上がる。

 電子音声のような声だった。

 高くもなく、低くもなく……中性的だが……男らしい。

 座っていたから気づかなかったが、かなり、背が高いようだ。ガリガリで、手足が長い。170……は確実にあるな。へたすりゃ180届くんじゃね? 羨ましい。

『うわぁ、うわぁ……人、堕ち人……しかも転生者は何万年ぶりだろう。珍しいなぁ……』

 なんて感心して呟いている。

 どこか、見覚えがあるような、ないような……ひ弱そう……いや、病人っぽい儚げな顔立ち。

 白いワイシャツにジーンズ、カーディガンを羽織り、さらにショールで身を包んでいる。

 病人。生気のない肌もあいまって病院へつれていきたくなる。


『っていうか、えっと……タチバナクン……だっけか?』

 俺のことを知ってるのか。やっぱ知り合い?

『ボク自身は違うけど……まぁ、知ってるよ?』

 こてり、と小首を傾げる彼。

 肩に届く程度に伸ばされた青みの強い黒髪、幸薄そうな、整った顔立ち。切れ長の眼は澄んだ、深い青色で……薄い、形のよい唇から覗く舌が……


 ……あ。


「タカトーか?!」


 思い出した。

 クラスメイトだ。

 高藤優樹。

 滅多に学校に登校しない幸薄病弱軟弱っ子。

 いたなぁ……

 原因不明の難病で日がな一日ベッドで寝たきりなんだとか。

 調子良いときにたまに登校してきても100m歩くだけで瀕死。

 常に何処かで座り込んでる。保健所が住み処。

 が、しゃべると結構面白かった……印象がある。

 なんか、微妙に色とか差違は見られるが……あいつ真っ黒髪だった気がするし。

 しかしタカトーだ。まぎれもなくタカトー。


「お前も転生してたの?」

『あー……ボクは……転移かなぁ……色々あって人の器捨てたけど』

 にへら、と笑って答えるタカトー。

 人を辞めたって……なかなかハードなことになってんね?

『ちょっと特殊な成りしてるからね。ボクは別に現実世界にもいるし』

「ん?」

『完全に転移してるわけじゃないってこと。現に、昨日もいたでしょ? ボク。多分昏睡してるけど』

 あー……っそういえば。

 入院してたんだっけ。死んだとか、行方不明とかいうことは言われてねーな。

 同じクラスだし、そこら辺は教えてくれるはず。

『まぁ、ボクのことは別に。どーでもいいんだよ』

 つか、タカトーって、こんなしゃべり方だっけ?

 なんて俺が考え付いた直後だった。

 タカトーがにんまり、と笑う。

「?!」

 あんまりに邪悪な笑みだったので、咄嗟に仰け反る。


『結構、会った機会なんて、あんまなかったはずだがな? よく覚えてんじゃねーか』

 クククッと喉の奥で転がすように笑んで、彼は再び首を傾げた。

 あ、そうそう。そんなしゃべり方だった。

 割りと普通に高校男子だったんだよなぁ……だから、タカトーなんてアダ名付けたんだし。

 ……本人の前で呼んだ回数なんて知れてるけど。

 何せ登校してこねーからな!?


『ま、区別だよ。ボクはシステムの優樹だから』

 さっきとは打って変わって、また穏やかな……気弱そうなしゃべり方に戻る。

「は?」

 システム? 区別?

『転生すればわかるかなー。君が生まれるのは-八番街-だし』

 なんて、いう彼は少し楽しそうだ。

 ハチバンガイ? 町の名前か?

「生まれる場所とか、わかんの?」

 疑問のままに訪ねれば、タカトー……っていうか、システム? の優樹はコクコクと頷いた。

『ある程度は操作できるからねぇ……。まぁ、知り合いのよしみだよ。でもあんまり期待しないでねーボクはそこまで万能……でもあるんだけど、一人一人に思い入れるほど、情があついほうでもないし? 調和とるの面倒だから』

 ……神様みたいなことしてんのな。こいつ。

 あ、だから、システム?

『聡いね。そ。世界を調整する調律者。それがボクの役割。神様じゃないけどね?』

「ところでちょくちょく俺の頭覗くのやめね?」

『覗きたくて覗いてるんじゃないんだけど……君、いま思念体だからね? 思考、駄々漏れだから。でも抑えかたわかんないよねぇ……』

「どうやんのさ」

『どうせ転生したら器できるんだし、思念体でしゃべることなんて皆無だから要らないでしょ。そんなことより、ここに迷い混んでくれたんだからこれからの話をしよう』

 と、優樹が片手を挙げる。

 同時に彼と俺の間にフォログラムで出来た世界地図が浮かぶ。

『ま、本来ならここを通さず<大いなる流れ>に行き着いて、そんままパンドラに生まれ落ちる訳なんだけど、なんでか君はここに流れ着いちゃったんだし、ちょうど良いから創造主直々この世界をレクチャーしてあげよう。ぶっちゃけボク暇なんだよ』

 うわ、最後本音だしやがった。

 まぁ、こんなところに独りでいりゃ、そりゃ暇……独り?

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