2話 トリブ共和国陸軍下士官勤務兵長・上等兵
『いいんすかあ、三年兵殿。僕たちこんな服しか持ってませんよ!』
『うるさいぞベス。お前がバスで私服詰めたトランクなくすからこうなるんだろが』
『でも、バス会社に問い合わせれば絶対出てきますよ』
『馬鹿、それだと列車に間に合わん』
『おとなしく飛行機で帰りましょうよ』
『死んでも乗らね!』
トリブ共和国陸軍の軍服着た男が二人、カービン銃肩に吊って駅に向かい全力疾走していた。口角泡飛ばして乱暴なトリブ語を交わす。銃は弾倉を外し真っ白な布でくるまれ武器ではなく只の輸送品としての印。腰の拳銃だけは護身用武器としての携行が許されている。
元々両軍の合同演習のため派遣されていたのだが、演習中斥候任務に就いていた二人は偵察途中に鉄鋼資源を見つけてしまう。陸軍上等兵ベス・シュヴァイツアが用便のため
とにかく採掘量の50%とはいえ利益は莫大なもので、二人は世界屈指の大金持ちになることが約束されていた。交渉は秘密裏に行われたためと会社事業開始前だったため有名になることはなかったが、耳ざとい企業は二人にゴマを擦り多額の「小遣い」を持たせた。だから高騰する越境最終列車のチケットを取ることができた。原隊は交渉に臨む二人を置いてとっくの昔に帰国している。装具の輸送許可証を交付するだけして銃すら持って行ってくれなかった。
『ちぇ、原隊の連中ひがんでやんの。俺たちが金持ちになるってから荷物なんも持ってってくれんで』
『でも、なくしたのが官物でなくてよかったでありますなあ』
『まあ官物なくしたとこで関係ないがな。営倉にぶち込まれようが間もなく満期、営門出てきゃ大金持ち。俺とお前の満期がうまいぐあい重なって助かる』
『金儲けに興味ないなあ。軍隊で呑気に過ごしてる方がいいです』
『一世一代の大発見だぞ。とはいっても市民のほとんどは知らんけど』
『ここの国策会社に半分持ってかれたくせに』
『仕方なかろう、俺たちはコーテーヘーカの臣民じゃないんだから。儲けの半分でも7回分の人生遊んで暮らせるぞ』
既に発車の汽笛が鳴っていた。走りながら車掌と警乗の鉄道警察官に兵器輸送許可証と護身拳銃携帯許可証を見せつけ説明しながら三等寝台車に滑り込んだ。その慌てっぷりを同じく三等車の個室からソフィアが眺めていた。
「ふうん、おかしな人もいるものね」
そう独り言ちて、知らない世界の一つ目の発見に伊達眼鏡の奥の瞳を輝かせたりした。
ジョシュアとベスはようやく指定の個室に入ると背嚢を投げ出してベッドの上に転がった。次いで銃剣とホルスターのついたピストルベルトを放り投げ思い切り伸びをする。
『それにしても剣のことはなにも聞いてきませんでしたなあ』
『戦争になんなきゃ刃は付けないからな。今はただの棒』
『銃はどうします?』
『カービンはクローゼットの中にでも入れておけよ。ピストルは…銃剣を外してベルトごとベッドの下にでも押し込んどけ。革バンドは持ってるか?』
『持っております』
『じゃあ外出には剣を吊るすぞ』
『三年兵殿、服は?』
『こうするしかなかろう』
ジョシュアが背嚢をまさぐると袋に入った裁縫道具と小箱を取り出した。小箱の中には階級章や部隊章、略綬が収められていて、今回のような派遣では必ず将兵は持ってきていた。儀式においては野戦服にこれら徽章を縫い付け代用儀礼装と為す。ただこの合同演習では儀式がなくラフスタイルのパーティーが二回あっただけで、外出も安全ピンで取り付ける簡易階級章を付けただけだった。トリブ軍が登場するテレビドラマが流行したためか、野戦服姿のトリブ軍将兵は庶民に不思議と人気があった。どちらにせよ礼装が必要な場所に行く酔狂な者など誰もいなかったので、代用儀礼装に出番はなかった。
ジョシュアは針に糸を通しちくちく徽章を縫い付け始める。もちろん背嚢の中で板のように平たくなっていた替えの服にだ。
『これを外出用にして、汚さないようにしないとな』
『三年兵殿、なにもそこまでしなくたって。階級章だけでも市民の受けはよかったんだし』
『解ってないなあ、周囲は上流階級だらけだ。徽章なしの野戦衣は囚人服に見えてみっともない。お前もやれ』
『代用儀礼装だと最低でも襟のついたシャツが無いと上衣の襟詰めなきゃならないからちと苦しい。あ、三年兵殿、一人だけ開襟シャツはずるいですよ』
『用意の悪いお前がいけない。白襟出すと映えるんだよ』
ジョシュアの方が縫い付ける物が多い。階級章部隊章はベスと同じだが、略綬の数も多く精勤章と下士官勤務者章も必要だった。ただ、ベスは金属製の重い
『あ!しまった』
『何がです?』
『この部屋禁煙だった』
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