第10話 元カノとタイムスケジュール作り
「……え? 入会? なに? 4人とも? マジ? やった!!!!」
結成されたLINEグループでちゃんと連絡を取り、ラブコメ研の部室に行くと、ぼーっと漫画を読んでいた先輩がひっくり返って喜んだ。奥でPCのキーボードをかたかたしてた先輩も、ふたりでカードゲームをしていた先輩も諸手を挙げて喜んだ。
なんでも、部室が居心地いい割に、新入会員は意外と少ないそうで。
4人もいっぺんに入るのは異例も異例らしい。まあ、うち2人はおまけだからな。確かに。
改めて、サークルの説明、部室の説明を受ける。
活動は年2回くらいの会誌発行がメイン。これは即売会で頒布するんだとか。ふむふむ。
あとは長期休みに合宿をしたり(ほぼ遊ぶだけらしい)、普段は部室でだらだらラブコメを摂取しているらしい。
いいね。「大学のサークル」って感じがする。
そういうわけで、俺たち「うさうさ」4人組は、空きコマの居場所を手に入れた。
部室は本当に快適だ。
ほどよく空調がかかっているし、騒ぐようなことをする人もないのでだいたい静か。その上壁一面に本棚があってラブコメ漫画とかアニメとかラノベとかが詰められているから退屈しない。「これどこから持ってきたんですか?」って聞いたら、OBの寄付らしい。すげえ。
電気ポッドとティーバッグが置いてあるから、もうなんか無料の漫画喫茶って感じ。ジュースはさすがに置いてないけど、別にコンビニで買ってくればいい話だしなあ。
あれよあれよという間に、俺は空きコマのたびに部室に入り浸るようになってしまった。
ちなみに宇佐美と鷺坂さんはあんまり来ない。
どこほっつき歩いてるんだろな。居心地いい中で仲良くなってくれればいいな、とも思ったんだけれど。
一方、内川は入り浸るようになった。
なんでだよ!
空きコマに部室に行くと、だいたい内川がいる。宇佐美と鷺坂はいない。
ゴールデンウィークが明けて2週間くらいが経ち、だいぶ初夏っぽくなってきてもこの状態が続いて、さすがにまずいと思った。
せっかく同じサークルに入ったのに、あいつら何も進展してない。
漫画の巻の切れ目のところで、部室の椅子から立ち上がる。
「……おい」
「なによ」
内川が本から顔を上げ、こちらを向く。指が挟まれている場所は終盤、残り50ページほどだ。なに、ちょっとした嫌がらせだよこれは。
「相談」
「はあ」
静かな部室でわちゃわちゃプライベートなこと(しかも他人の)を語るのは気が引けたので、場所を移した。
こういう時は学食が便利だ。4人掛けの席を2人で占領する。
「で、なに」
「これでいいのか?」
「あたしは快適よ? 誰かさんの存在を除けば」
「それはこっちのセリフなんだが」
「え? 非干渉ならまだしも今嫌がらせしたわよね?? いいとこだったのに」
ここ演技のしどころだぞ。がんばれ俺。
「……何の話だ?」
「こっちのペースちらちら見てたの知ってるんだからね」
「……は?」
「合わせるならまだしも邪魔するなんて、ねえ。さぞかし重要な案件なんでしょうね?」
「うっ……」
ばれてーら。そして目が怖い。
「な、どうして知れたんだよそれ」
「先輩に教えてもらったから」
「なるほど」
「なるほどじゃないわよ」
「いやそれはもう仕方ないわ」
どの先輩だ? 許さん。
許さんところで大して行使できる権力もないんだが。
「緊急とは言わないが、重要な案件だ」
「どうやってあのふたりを部室に来させるか、ね?」
「まあそれもそうなんだが『何させるか』も大事じゃないか?」
「そんなの決まってるじゃない――あ、でも」
内川は何かを思い出したようにくすっと笑うと、ちょっと蔑んだみたいな目でこっちを見た。
……こんなのでぞくぞくする趣味は俺にはないからな。ほんとに。
「次、あんたの番よね? 仕事」
「まあそうだけど」
「『どうやって』より、『いつ』の方が重要じゃないかしら」
「……はあ?」
「『どうやって』はあたし達が指示すればいいことじゃない」
ちょっと強引でもいいから「鷺坂さんと話せるかもしれないだろ」とか言ったら宇佐美は落ちる。ふらふら部室に誘い込まれる。それは明らかだ。
「でも、それで行っても相手がいなかったら意味ない」
「確かに」
「これは『必要なこと』よね? じゃあ
「……は?」
「あたしと実紀の時間割は送るから。じゃあ」
内川は話は済んだとばかりに席を立ち、食堂から出て行ってしまった。
何それ。えー、めんどい。ひどい。
……まあでも、4人のスケジュールが可視化してあったら便利なことも確かだから、何も言い返せない。次の当番俺なのもあってるし。
はー。
まあでも、心理的なハードルが低い仕事で済んで、助かったといえば助かった……のか?
どうせ将来的には共有してがちゃがちゃ書き込むんだろう。手書きの表とかExcelとかだと拡張性が足りない。
ちょっとややこしかったけれど、Googleスケジュールに全てを打ち込んで一覧できるようにした。これなら、どのコマに誰が暇してるのか一目瞭然だ。わかりやすい。
完成した向こう数週間分のスケジュール表を、内川に送る。
佐谷賢一 :[URL]
佐谷賢一 :できた
佐谷賢一 :確認しといて
うちかわはるか:何これ
うちかわはるか:あー、見れた
うちかわはるか:ふーん
うちかわはるか:明日さっそくふたりが被って休みのとこあるのね
佐谷賢一 :で、だな
明日の午前中、宇佐美と鷺坂さんが揃って空きのコマがあることが判明した。
一方で、俺も内川も切れない授業がある。つまり、あのぽんこつふたりの仲を取り持つことができない。というかまだ仲を取り持つってレベルですらないのだがそこは置いとこう。
とにかく、ほっといたら絶対うまくいかないのは目に見えている。
じゃあ、どうするか。
話すきっかけがあればいい――彼らが出逢った日のように。
そう考えて、俺はひとつ作戦を提案した。
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