本社にて

津村の捜索が始まって2週間、足取りは新宿の整形外科で消えた。そこから何の成果も出せず津村の捜索は終わろうとしている。


部長の石川は津村の名前を出すこともなくなり「目撃情報があり次第捕獲する」という方向性に変更したようだ。だが、はっきり言ってそれは捜索を諦めたを体よく言い換えた言葉に過ぎない。


午後一の会議の後、5階の整備ロッカーへ足を運んだ。3週間前に届いていた新型の散弾銃を確認するためだった。階段を上がろうと手すりに手をかけたとき、藤島が声をかけてきた。


「新入荷のオモチャはある程度整備しといたよ。あんたのは注油にとどめておいたけど」

予想通り藤島は自分の分まで手を付けていた。

「ありがとう。とはいえチェックは自分でするよ」といい5階への階段を昇る。IDカードを端末にかざして重い扉が開くのを待った。扉が開くと自分のロッカーの前にあるペリカンのケースを見つけ手をかける。中を開けると2丁のベネリ・ショットガンが入っていた。なけなしの給料から出した調達費で購入した最新のショットガンだった。

1丁は伸縮可能な台じりのもの、もう1丁は固定式の台じりが付いたものだった。両方とも少しいじったが特段引っかかりもなくスムーズに動くことは確認できた。次の出動の時に投入するかどうか検討しないとと思いつつID登録をするためにケースを扉の外に一度出した。


持参したバッグの中からSIGのピストルを取り出してロッカーの中に入っていた古びたベレッタを変わりに取り出した。こちらも長く使っていて威力不足が気になって来ていたということで現在使っている40口径のグロックに変更してお役御免になっていた。ただ愛着があって廃棄処分にできずロッカーの奥にしまっておいたのだ。


バッグから銃器の部品を取り出す。先日馬場で丁と食事をした際拳銃だけではなくいくつか部品も仕入れていた。ベレッタに使用する強化キットを素早く取付け予備のマガジン含めバッグの中に仕舞う。この銃はID登録制が施行される前の銃だったので外に持ち出すのは簡単だった。持ち出したことがバレたら懲戒免職処分になるのは理解していたが、あまり気にすることもなかった。


ふと壁のラックに目をやると先日押収したクロスボウがなくなっていることに気づく。廃棄処分にされたか誰かが無断で使っているのだろう。そういえば先週三上のアクセスカードが30分紛失するという騒ぎもあった。入退室ログも監視カメラにも特段不審な点は見当たらず何もなかったようだが、最近この会社のセキュリティは甘すぎる。


2丁のショットガンと共に4階のフロアに戻りデスクワークをこなす。そういえば今日が妻の初出勤日だった気がする。あの後自分が人事課に書類を提出し、身内であること、この仕事を理解していることを述べたら2日ほどで採用通知が届いたらしい。なんとまぁ話の早いことと思ったがこの会社の新陳代謝サイクルが早いことは承知していたので順当だろうと思った。


妻の勤務するフロアは2階だった。後で顔を出して一緒に帰ることが出来るか聞いてみよう…というか単純に心配だから覗きに行きたいというのが本音だった。


あの後妻のうつ状態は少し良くなったように見える。以前からハマっているインターネット上のお見合い番組を見てあーだこーだ言いながら食事を作れるくらいまで状態は戻ってきていた。


このまま仕事をさせても問題ないだろうと考えながら自分のデスクワークを淡々と片づけていく。義母を殺した犯人も、津村のことも頭から離れないがそれでも目の前にある仕事は片付けなければならない。先日駒込で捕獲した両親と活性遺体に関するレポートを書き上げてネット上のワークフローに載せた。石川が承認すれば厚生労働省に送付されシリアルナンバーと紐づけられ両親は死体損壊や保護責任者遺棄の罪に問われるだろう。娘たちは既に骨となり練馬の寺で供養されている。両親の裁判が終わったら再会できるはずだ。


時計を見ると17時半、そろそろいいだろうと思い帰り支度をしているとPCの電源がアダプターから電池駆動になった。次の瞬間部屋の照明も消えた。一瞬何が起こったかわからなかったが、突然の停電があれば予備電源が作動する筈なので暫く待った。


10分後、部長室から石川が現れ「全電源喪失!みんな荷物をまとめて階段使って退社して!ドアは人力で開くようになってるから」と号令が出た。妻が初仕事の日にこんなことが起こるなんてと思いながら荷造りをしていると藤島と三上が駆け寄ってきた。

「何かあったか?」

「自然発生の停電じゃなさそうだぞ。どうする?」

「今日は妻がこのビルにいる。さっさと非難させないと不味いな」

「分かった。取り敢えず3人で外に出よう」


二人が先に扉に向かったのを確認してバッグの中に入っているベレッタを確認する。フル装填のマガジンが3つ…何かあっても対処できるだろうと思いながら席を立った。

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