脱走者
高田馬場に着くとそのまま西早稲田へ向かう。目的地は古びた雑居ビルの一階、元々玩具銃を扱っていた店だった。5年前店主が商品と共に蒸発して直ぐに中国人がスペースを買い取った。そこで本物の銃を販売しだしたのだ。正確に言えば表におもちゃの銃を飾り、以前と同じような状態に見せておいて警察の手入れをやり過ごしていた。
津村は店員相手に同僚、三上の盗撮写真や動画を売り小遣いを稼いでいた。病院を出て直ぐに電話し事情を説明すると二つ返事で引き受けてくれた。金の支払いについてはことが終わってからでいいとのことだった。
「これしか用意できなかった。申し訳ない」と申し訳なさそうな様子もなく店員が紙袋を差し出してきた。中を見るとマカロフ拳銃と予備の弾丸が1ダース、汚いサプレッサーが一本入っていた。
紙袋に手を突っ込んで中身を取り出す。スライドを引いて撃針を確認するが特に不都合はない。全体的に使い込まれて傷も多いが作動はするだろう。
「これは本物か?」とサプレッサーを指差しながら津村が聞くと「多分ね、そこまでは調べてないからわからないよ」と店員は興味なさそうに答えた。
一度空撃ちして引き金がしっかり作動するかテストする。こういったチェックは仕事を始めてから覚えたものだった。
一通り確認して店を出る。さて、どうやってあの女を殺すかと思いながら高田馬場駅まで戻ることにした。
基本的には一人でいる時を狙わないといけない、社員がいるとたちまち組み伏せられてしまう。となるとトレイに隠れてチャンスを狙うか、と考えながら目白方面に向かって歩いていると一人の女性に肩がぶつかった。
熱のせいか少し視点が揺れている。ただ、ぶつかった女性がこちらに対して侮蔑の目を向けているのはわかった。津村はカッとなって女性の肩を掴んで引き倒した。
女性は必死に抵抗したが男の腕力には為すすべもなかった。腕を曲げると小枝が折れたような音とともに折れた。
暗がりかつ人通りのない道、誰にも気づかれなかった。
津村は我に返り女性を観察した。見た所50代後半、津村の母が生きていればこんな感じだったろう、そんな気がした。
「すみません、すぐに救急車を呼びます。警察も呼んできますのでここで待っててください」と高田馬場駅方面に10メートルほど進み紙袋からマカロフを取り出した。女性は何が起こったか分かる間も無く頭に強い衝撃を受け意識を失った。
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